ママが使っている鍋がきらきら
掲載日:2025/12/24
夕方になると、キッチンから決まって小さな音が聞こえてくる。
ことん、ことん。
それはママが鍋を置く音だ。
ぼくはその鍋が好きだった。
だって、ママが使っている鍋は、いつもきらきらしているから。
銀色のふちに夕日のオレンジが映ると、まるで星を閉じこめたみたいに光る。
スープをかき混ぜるたび、湯気の中で鍋がゆっくり回って、
そのたびに、きらり、きらりと光がはねる。
「そんなに見てると、お腹すくよ」
ママは笑うけど、ぼくは鍋を見ているだけで、なんだか胸があたたかくなった。
この鍋から出てくるごはんは、いつもおいしい。
カレーの日も、シチューの日も、失敗したと言いながら作った野菜炒めの日も。
ある日、学校で先生が言った。
「物は大切に使えば、心を映す鏡になります」
そのとき、ぼくはすぐにあの鍋を思い出した。
きっとママの心が、あの鍋をきらきらさせているんだ。
夜、食事が終わって、ママが鍋を洗う。
水の中で鍋は、さっきより少しだけ静かに光っていた。
「どうしてそんなにきらきらしてるの?」
ぼくが聞くと、ママは少し考えてから言った。
「毎日、ありがとうって思いながら使ってるからかな」
ぼくはうなずいた。
それなら、ぼくもこの家の中で、きらきらできる気がした。
ママが使っている鍋は、今日もきらきらしている。
それは、愛情の色をした光だった。




