第四話
「“冒険者ギルド”へいらっしゃいませ!」
長い列を並んで三十分。受け付けをしてくれるギルドの人は、猫の獣人のお姉さんだった。紺色の制服姿の彼女は、笑顔で迎えてくれる、
「何のご相談でしょうか?」
彼女の声の抑揚とともに動く猫耳。後方の細長い尻尾は、左右に揺れていた。
満面の笑顔を向けられて、ルベルは口ごもってしまった。頭から漏れる白い湯気は、彼女の体温が低下してるサインだ。
中々喋り出さないルベルに、お姉さんは笑顔のまま首を傾げる。
「あー、ごめんこの子の住民登録をしたいんだよ」
見かねたティルトが、横から助けてくれた。
お姉さんは彼と視線を合わせると、一瞬笑顔を収めた。しかし、すぐに営業モードのスマイルを引き出す。
「ティルト・エンヴォーさんのお知り合いですか?」
「うん、そういうこと」
なるほどと彼女は頷く。
「じゃあ、住民登録は勝手に済ませておきますね。名前は何ですか?」
「る、ルベル・スノウ……です」
自分の名前はなんとか絞り出した。
よし言えたと小さくガッツポーズを作るものの、お姉さんは書類を取り出していたために見ていなかった。
少しショックを受けるルベルに、ティルトはクスリと笑う。
「住所はどちらにしますか? 宿屋を拠点にする流浪と街の家に住む固定がありますが」
「それなら僕の別宅でお願いするよ」
「分かりました。それと、“冒険者”の登録もしますか?」
聞き慣れない単語に、ルベルはティルトの顔を見た。
彼は笑顔のまま説明を始める。
「冒険者とは、依頼をこなして生計を立ててる人たちだね。収集や失せ物探し。魔物討伐や物を運ぶまで色々しているよ」
「え、えーと……?」
「つまり、この世界では掛け替えのない便利屋ってところ」
彼の視線に誘導されるように周りを見た。
剣を腰に提げた鎧姿の若者。筋骨隆々で斧を背中に背負った男。ローブに三角帽子をかぶって、杖を手に持った女の子。様々な服装の人間で、周りは賑わっている。
つまり、彼らが“冒険者”なのだろう。
「人の役に立てるってことですか?」
「……まぁ、概ねあってはいるね」
どこか含みのあるティルトの言い方だったが、ルベルは気がつかない。彼女は鼻息荒く、受付に前のめりになった。
「私、冒険者になりたいです!」
彼女の興奮に反応するように、周りの気温が低くなる。お姉さんが寒さからか震えた。
しかし、すぐに気温は戻る。ルベルの後ろにいるティルトが苦笑する気配がある。
「分かりました。こちらも、ついでに登録しておきますね。ティルトさんからの紹介ですので、余計な手続きは全部省かせてもらいます」
「あぁ、頼むよ」
「但し、ランクは最低ランクのブロンズからですね」
お姉さんが引き出しから取り出しのは、銅でできたプレートだった。
「これを身に着けておいてくださいね。依頼はあそこにある掲示板から受けられます」
彼女が指し示したのは、受付の脇にある木製のボードだった。その前にはたくさんの人間が溢れている。
ルベルはプレートを受け取ると、目を大きく輝かせた。握りしめて、胸の前に持ってくる。
鼓動が早くなり、心が熱くなった。
「嬉しそうだね」
「はい! 私でも人の役に立てるんだって思って!」
その言葉を受けたティルトが、ルベルの頭を撫でくりまわす。
彼女はボサボサにされた髪を整えながら、頬を膨らませた。
「……子ども扱いしてますか?」
「子ども扱いはしてないけど、純粋だなって思ってさ」
「子ども扱いしてますよね? 私これでも、何百年も生きてるんですけど!」
興奮しているルベルに対して、ティルトは口元に人差し指を当てた。
「あんまり、そういうことは言わないほうがいいよ。“何百年も生きてるなんて普通ではないからね”」
「……はう。すみません」
肩を落とした直後、お姉さんの咳払いが聞こえる。ルベルは慌てて向き直った。
「手続きはこちらのほうでやっておきます。後ろがつっかえているので、そろそろ替わっていただけませんか?」
「…………すみません」
怒られ続けて、少し落ち込み気味のルベル。そんな彼女を、ティルトは眩しそうに目を細めて見つめた。
「それとついでですがティルトさん。副マスターから、あなたが帰ってきたら呼ぶように言われてます。後で尋ねてください」
「わかった。あとで行くと伝えておいて」
それだけ言うと、ティルトはルベルを引っ張って人が少ないところまで連れて行く。
「あの、何から何までありがとうございました」
「良いんだよ。落っこちた僕を助けてくれてご飯までくれたんだから。そのお礼だよ?」
「で、でも私。こんなに大きな恩を返されることをしてません」
また沈みかけたルベルのおでこをティルトが弾く。突然のことで、彼女はおでこを抑えながら目を白黒させた。
「僕はずっと言ってるよね? 笑顔のほうが似合うって」
「はうぅ〜……」
「ほら、可愛いんだから、沈んでたら勿体ないよ?」
言われ、ルベルは恥ずかしそうにはにかんだ。その笑顔を見て、ティルトは満足そうだった。




