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第十一話

 あれからルベルは氷の制御を練習しているのだが、どうにもうまくならない。やはり才能がないのかと落ち込むと、そんなに簡単にはうまくならないよとティルトに励まされる日々。

 長年染みついた習慣は取れるものではない。普通の人間よりも数倍長く生きている者なら尚更だ。


 頭でわかってはいても、やはり心の中では焦ってしまう。それはルベルが一日でも早く人間の役に立ちたいという、勝手な思い込みによるところだろう。


 ギルド内の騒がしい中、彼女は待合場でいつものようにサシャのことを待っていた。


「今日もきっちり来ましたね」


 椅子に座っていると、サシャの声が聞こえた。声のした方に顔を向ける。

 彼女はいつものように背筋を伸ばして凛と立っている。


「来ましたというか、つれてこられたというか」

「……一緒に寝食をともにしてるのですから当たり前ですね」

「ところで、ティルトさんはどこに行ったんでしょうか?」


 彼の姿が見えないことに、ルベルは首を傾げる。朝ごはんのときは一緒に食べた。

 サシャとティルトはそれから用事があるからと家を早めに出たのだ。


「ティルトなら少し考えたいことがあ──」

「お……ねぇさま!」


 途中で聞き慣れない声が割り込む。瞬間、サシャが大きな声でため息を吐いた。気のせいか、額に青筋が浮かんですら見える。


 割り込んできたのは、金色髪のエルフだった。顔つきはサシャによく似ているが、金色のエルフのほうが少し目つきが鋭い。


「……何ですか? シンシア」

「もう、お姉様ったら可愛い妹が頼って来ているのにぶっきらぼう何ですから。わたくし、少し相談事がありまして、お話させてもよろしいでしょうか?」

「あなたがそのきっしょく悪い猫なで声で話すときは、いつもろくな事にならないのです」


 急な闖入者に状況がついていけずに目を白黒させる。そんな彼女を置いて、シンシアと呼ばれた妹(?)は話を続けた。


「ちょっとした相談事ですの! 本当に! パーティーのランクを本格的に上を目指したいと思ってますの!」

「目指せばいいでしょう? 真面目に」

「だから、お姉様に尋ねてるんでしょうが! わたくしは大真面目ですのよ!」


 彼女の大声に、周囲の注目が集まっていく。中には「シンシアがまた何か企んでるな?」という声まで混じっていた。

 サシャは観衆から顔を隠すように目を背けた。大きくため息をついてから、ルベルに向き直る。


「ルベルさん。少し待っててくれませんか? このバカ……妹の話を少し聞いてきます」

「わ、分かりました」


 返事をすると、サシャは深々と頭を下げる。踵を返しながら、シンシアの手を掴んで事務所の方に引っ込んでしまった。

 シンシアは引きずられながら、「今バカって言いました!?」と噛みついている。


 なんだかすごい嵐にでもあった気分だ。目をぱちくりしながら、彼女たちの消えたほうに目を向ける。


「いやぁ、すごい存在感だったね。さすがシンシア」


 いつの間にか横から声をかけられて、小さく悲鳴を上げた。そこには女の子が座って頬杖をついている。


 背丈はルベルよりも小さかった。笑顔を見せる彼女には、どこかいたずらっ子を思わせる気配がある。

 背中からは薄い翅のようなものが二対生えていた。


「やっほー! 私、ファーミュ・ノイマントット。ギルド員で商売人もやってるんだ〜」

「あ、はい……私は──」

「ルベルちゃんだよね」


 名乗るより先に、名前を呼ばれた。思わず背筋が伸びる。

 緊張から少し体温が低くなりそうなのを、ぐっと堪えた。


「し、知ってるんですか?」

「知ってるも何も有名だよルベルちゃん。ギルドマスターと副マスターが目をかけてる子だって」

「ギルドマスター? 副マスター?」


 あまり聞き慣れない単語に首を傾げる。

 確か、サシャは副マスターだという説明は受けていたはずだが、ギルドマスターは完全に初耳だ。


「このギルドで一番偉い人と二番目に偉い人。ティルトさんとサシャさんのことだよ」

「……え!? あの二人ってそんなに偉かったんですか!?」


 思わぬことに、ルベルはあわあわしだす。その様子を見てか、ファーミュは楽しそうに笑った。


「あっはは、ルベルちゃんって面白い子だね」

「……そ、そうですか?」

「うん、お友達になりたいって思っちゃった。ねぇねぇもしよかったらさ、一緒に依頼を受けない?」


 ずっと孤独だったルベルにとっては、お友達というのは魅力的な言葉だ。一緒に誰かの役に立つために依頼をこなしていく、とても素敵なことだろう。

 しかしと、彼女は首を横に振る。


「私にはできません」


 能力が暴走してしまうから。


 嫌な思いをさせたかなと、ちらりと横を見た。ファーミュは目が合うとニコリと返す。


「そっか残念。だったらまた今度だね、時間があったら考えてみてよ」


 立ち上がり、背筋を伸ばす。「またね」と言うと、走ってその場を去っていく。


「……友達」


 胸の前に右手を置く。心臓を落ち着かせるように、深呼吸をした。

 そんなとき、丁度サラが帰ってくる。


「あ、おかえりなさい。さっきの人は大丈夫でしたか?」

「問題ありません。さあ今日も討伐依頼に行きましょう」


 サラの言葉に、ルベルは立ち上がる。

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