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第十話

「人間が恐れるものは、何だと思いますの?」


 静かに口を開いたのは、金髪ショートヘアのエルフだった。赤い瞳は好戦的に光る。

 目の前に逆さで吊るされているのは、裸の二人の男。

 彼女の命令で氷の少女を捕まえるように言ったのに、下手を打ちすぎて完全にギルドに警戒されあまつさえ利用された馬鹿二人。


 男たち二人は猿ぐつわをされ震え上がっていた。


「わからんなぁ……とりあえず、その粗末な男二人はあんたのことを恐れているみたいだけどな」


 答えたのは茶髪の獣人の女だった。黄色い瞳は、濁ったように溶けている。右目は傷でふさがっていた。

 大きな胸は彼女の動きに合わせて揺れる。


「はいはい! 私は貧乏が怖い!」


 元気よく手を挙げたのは、小柄な少女だった。妖精と人間の血を引いているという稀有な人種で、いつも好奇心旺盛そうな光を青い瞳に宿している。


 彼女たち三人は、冒険者の中でも指折りのパーティーとして有名であった。ランク帯は全員がゴールド以上である。

 そのリーダーである金髪のエルフは──シンシア・ローグワット。副マスターサシャの実の妹である。


「本当にバカばかりですわね」


 大きくため息を吐いて、肩を落とす。


「恐怖は未知ですわ。対処できない未知があるからこそ、ギルドは瓦解してサシャは負けを認めるんですの!」

「おう、悪役風に決めてるけど、あんたの姉へのコンプレックスが隠せてないよシンシア姉さん」


 苦笑して椅子の背もたれに大きくもたれかかった獣人はドロル・キャットウォーという。彼女は、シンシアが作ったパーティーの前衛を担当していた。

 しなやかな肌は筋肉によって保たれている。日々の筋トレを欠かさないほどの真面目な人間である。


「あはは! わざわざ当たり屋を雇って、ルベルを仲間に引き込もうとしたのにあっさり阻止されたもんね」


 もう一人の混血の少女は──ファーミュ・ノイマントット。妖精のようないたずらっ子の笑みを見せるが、その実は商売人。たくさんの物品をいろんなところから運んできて売る活動をしている。


「う、うるさいですわ!」


 怒ったシンシアは、八つ当たり気味にぶら下がる男の腹に拳を振った。急所に当たった彼は、逆さ吊りのまま気絶してしまう。


「とにかく、作戦は次に切り替えますわ! 今度は依頼でブッキングして、仲間に引き込むの! そして、私の力の恐怖を持ってギルドマスターの地に着くのですわ!」


 指で彼方を指して決めポーズをシンシアがとる。一方、ドロルはファーミュの耳に口を寄せた。

 

「……なあなあ、シンシア姉さんの力というよりその子の力にならないか?」

「そこんところがシンシアのアホさが出てるよね」

「聞こえてますわよ〜!!」


 彼女の怒りに応じて、風が巻き上がる。

 ドロルは顔面に貼り付いた紙を慌てて引き剥がし、ファーミュは足をバタバタさせて笑いながら空中を飛び回った。


 風がやむと宙に揺られながらくつろぐように足を組んでファーミュが頭に両手を置く。そのまま、彼女は面白そうにシンシアを見つめた。


「それで、あの二人からどうやってルベルっていう子を奪うの?」


 その質問にシンシアは固まる。ぎこちない笑みを浮かべながら、冷や汗をかく。


「んー? シンシア姉さん、まさか無策ってわけじゃないよな? 少なくとも、姉さんがなんかしてくるのはティルトもわかっていると思うけど?」

「お、おーほほほ! わ、わたくしに任せなさい!」


 高笑いを浮かべているが、視線は泳ぐように定まらない。見つめる二人の瞳から逃げるように顔をそらしている。


「……誤魔化したな」

「……誤魔化したねぇ」


 二人が同時に言ったことにより、シンシアは顔を真っ赤にする。

 そのまま地団駄を踏んで歯を噛み締めた。


「わたくしだって計算外はありますの!」

「むしろ計算外しかなくて、ゴールドランクに落ち着いているのでは?」

「シンシアの想定では、もっと早く上のランクに到達してたはずだもんね」

「このパーティーにはわたくしの味方はいませんの!?」


 シンシア一人が大きく騒ぐ。他の二人は、苦笑を浮かべるのだった。

 まるで、駄々っ子の願いを叶える親のごとく。


「だから! わたくしはあの子が欲しいんですの!」

「出た。解決策に力を求める典型的な小悪党。さすがシンシア姉さん、意地汚い」

「ドロルはわたくしを完全にバカにしてますわよね!」


 騒ぐ二人をよそに、ファーミュがくるりと空中で回転した。


「ま、接触は私に任せてよ。これでも、商売人としてコネ作りは得意だからさ。一応、パーティーの仲間としてシンシアの願いを叶えて上げる」

「一応ってなんですの!? いつも叶えてくださいませ!?」

「重たい方向は私はだめだから」

「あたしもパース。いつもは付き合ってらんない」


 二人の薄情な言い分に、彼女は崩れ落ちた。

 こうして、一つのパーティーの思惑が今日も過ぎ去っていく。

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