一夜の恋で終わる予定が……運命の番と言われても!?
久々の投稿です。よろしくお願い致します。
「んん〜……」
まだ火照る体を起こし、横で寝ている男が起きないようにそっと寝台から降りる。
私……しちゃったんだ!
これで私は処女ではなくなった。
あの男と……婚約しなくても良い。
横で寝ている男は昨日、酒場で知り合った、初対面だけどなぜか意気投合した男。
自分を抱いてくれる男なら、誰でも良かったんだけど。
実際に意気込んで行くと、好きでもない男に抱かれることに抵抗があった。
なので酒に頼った。嗜む程度には飲んでいたが、大衆酒場の酒は体に合わなかったのか、すぐに酔ってしまった。
そんな私を介抱してくれたのが、横で寝ている名も知らないこの男だ。
鍛え上げられた筋肉に褐色の肌、それに端正な顔立ち。
……どう見ても、女性に困らなそうな外見。
おっと、そんなこと考えている余裕はない。この男が起きる前に、この場所を出ないと。
部屋を出ようとそろりと足を動かした時、男が寝返りをうつ。
一瞬起きたのかと、胸がびくりと鼓動を打つが、男の瞼は閉じていた。
ほっと安堵したのも束の間。
——みみっ耳ぃ!?
声が出そうになるのを我慢した自分を褒めてあげたい。
視界に入ってきたその姿は……
やばい、やばい、やばい。
心臓の早鐘を打つ速度がドンドン早くなる。
私はその場にあった私服を適当に着て、慌ててその場を去った。
誰にもバレないように変装もしてきたんだ、バレる事はない。
酒場にいた私は、花売りの街娘リリー。公爵令嬢リリエラ・ブルーノートではない。
魔道具で変えていた変装を解き、用意していた馬車に急いで乗り込み、ブルーノート公爵邸に戻った。
馬車を運転していた御者には約束していた数枚の金貨を渡し、今日あった事は全て忘れると約束させ、ブルーノート邸から御者は消えるように出て行った。
御者の男は娘が大病をしている。そのために金貨が必要だったのだ。
私は裏口から入り、私室にこっそりと戻る。この抜け道はお祖母様から教えてもらった秘密の抜け道。お祖母様もこの抜け道を使って、コッソリ抜け出していたのよっと微笑みながら私に教えてくれた。
「ハァ〜……私、しちゃったのよね?」
私にはどうしても、非処女になる必要があった。
でないと、嫁ぎたくもないのに第二王子の妃になってしまう。
ブルーノート公爵家の娘と。結婚させろと王命が来た時は、あまりのショックに母が倒れてしまった。
第二王子は無類の女好きで、女を取っ替え引っ替えしている女狂い。
しかも処女好きで有名。辺境伯として領地を与えるにあたって、国王陛下から結婚しろと言われ、私に白羽の矢がたった。
私には元婚約者がいたんだけれど、運命の相手を見つけたとかなんとか言って、婚約破棄されてしまった。そこに目をつけた国王からの王命で結婚の打診が来たのだ。
別に元婚約者に未練などない、なんなら全く好きでもない。だけどタイミングよ!
こんな事になるなら、もう少し婚約破棄を引き延ばすところだった。
「婚約破棄ですか、喜んでっ……慎んでお受けいたしますわ」なんて言わなければ良かった。
王族との結婚は、処女でなければいけないなんて風習は昔のことで、今はもう無いのだけど。
私が結婚する相手レオナルド・ハーヴェストは違う。付き合う相手は絶対に処女でなければいけない。なんでそんなに処女に拘るのか。魔道具を使ってまで処女か非処女かを検査するのは有名な話。
まぁ、その噂を利用させてもらったのだけど。
「ハァ……勢いでとはいえ。初めてあった男性とあんな事をするなんて……」
ああああっ。
思い出すな私っ。お酒が入ってぼんやりしていたとは言えうっすらとは覚えている。恥ずかしさで、悶えくる死ぬぅ。
深呼吸、深呼吸……落ち着け私。
せっかく、問題が解決しそうになったのに、新たなる問題が発生しそうなんだ。
昨夜の相手は獣人だった。どうして気づかなかった!
まさか、帽子の下に耳が隠れているなんて、思いもよら無かった。
しかも褐色の肌に銀がかった灰色の髪色は爵位が高いはず。銀色なら王族だ。
ハーヴェスト王国の何倍も大きな帝国、ガイロス帝国。
銀や灰色の髪色は聖獣フェンリルの血筋を濃く受け継いだとされ、爵位が高くなるのだと、学校で習った。
獣人といっても、見た目は私たちとほぼ同じ、獣耳がなければ見分けがつかない。尻尾だって生えていないもの。
なんであんな場所に、位の高い獣人がいるのよう!
「ああああっ! やらかしたぁぁぁぁ」
だってだって、自分から声をかけるのなんて、なかなかハードルが高く。声がかかるのを待ってたら、誰からもかけられず。なんでよう、それなりに見た目は良い方だと思うのに。なんて落ち込んでいた所に、唯一声をかけてくれたのが、あの獣人だった。
ちょっと口数は少ないけれど、優しくて良い人ってのがすぐに分かったし、なんだか意気投合して……ゴニョゴニョ。
大丈夫! 魔道具で特徴的な髪色も瞳の色も変えていたんだ。
ブルーノート公爵の血を引く者は、銀が混ざった水色の髪色に、銀色の瞳を持って生まれてくることが多い。
私はその特徴的な見た目のどちらも持ち生まれてきた。普通は髪色か瞳の色どちらかが出ることが多いのだけど。
それを全て変えていたんだ、絶対に分からないはず。
私はこの後レオナルド王子から非処女を隠していたと不敬をかい、ブルーノート公爵家から廃嫡され、辺境にある屋敷でひっそりと暮らすのだ。その屋敷はすでに私名義で貰っている。
後は明日、レオナルド王子が公爵邸にきた時に、結婚を破談にできれば私の努力は報われるのだ。
★★★
——やっと見つけた……俺の愛しい人。
人族の招待で王都に来ていたが、まさかそこに俺の番がいるなんて、思いもよらなかった。
街を歩いていると、胸が高鳴り獣化しそうになる程の強烈な香り。すぐに番の香りだと分かった。
——近くに番がいる!
「いたっ! あの娘だ」
番は飲み屋に入っていく瞬間だった。しかも普通の飲み屋ではなく、その日限りの出会いを求めるような場末な飲み屋。
なんでそんな場所に! 変な男に絡まれたら困るので、急いで後を追って中に入った。
茶色い髪色に蒼い瞳。俺の番はなんてかわいいんだ。
店にいる男たちが、番にそう易々と声をかける事ができないように、こっそり魔法で可愛い姿を隠蔽し、誰にも分からないようにした。
後は俺が自然に声をかけるだけなんだが……
「くぅっ……」
番が愛おしすぎて、緊張して声がかけれない。
この俺が、女に緊張して声がかけれなくなるなんて、さすがは俺の番。
強い酒を何杯も飲み、酔った勢いを使いやっとの事で声をかける事ができた。
番も酔っているのか、楽しそうに話すその姿、全てが愛おしい。
名はリリーと言うのだとか。名前まで愛おしい。
それにしてもだ、俺の番はなんて可愛いのだ。何回でも言おう。
頬が桃色に紅潮し、瞳が潤んでいる。そんな顔で俺を見ないでくれ!
理性がぶっ飛ぶ。
落ち着かせるために水を流し込んだつもりが、酒の原液を飲んでいたようで、理性がぶっ飛んだ俺は、番を近くの宿屋に連れこんでしまった。
その事を今更後悔などしていないが、目を覚ますと番が姿を消していた。
それは、自信を無くすだろう……
俺は満足させることが出来なかったのか?
酔っていたとはいえ、無理強いはしないよう大切にしたんだが……
だが、逃げようとも無駄だ。
番の印を残してきた。どこにいても探し出せる。
待っていろ俺の番。
万全の体制で、リリーを迎えに行くからな。
★★★
「初めましてリリエナ嬢、レオナルド・ハーヴェストだ」
「初めましてレオナルド殿下」
ブルーノート邸にあるサロンにて、お互いに挨拶を交わす。
レオナルド殿下は、無駄に見た目だけは良いので、今までの女性はその見た目にコロッといったんだろうな。
私も惚れると思って、自惚れているのが見え見えである。
全く好みじゃないけどね。それなら昨夜の男性がのが何倍も……っつ! 情事を思い出しそうになり、顔が火照る。
「リリエナ嬢は、男性に対してあまり免疫がないのかな?」
何を勘違いしたのか、私がレオナルド殿下に緊張し、頬を赤めていると思ったよう。
違うからね!
「まぁ、絶対に有り得ないのは分かるのだが、一応形式としてね。セバス! 例のあれを持ってこい」
ああ、例のアレね。処女検査の魔道具。
この検査をしたら私は終わる。お父様、びっくりさせてしまう事を、お許しください。
執事のセバスさんが持ってきた魔道具をお腹にかざすと、魔道具が赤色に光る。これは非処女の証明。青だと処女。なんでこんなので分かるのか、不思議である。
「……非処女ですね」
「うんうん、そうだろぉぉぉぉ!? って非処女!?」
「ええっ!? リリー!? どう言う事だい!?」
殿下どころか、お父様まで慌てている。なんだかすみません。
ここで私は、決めていセリフを言う。
「すみません、私には好いた方がいまして。その方は平民で結ばれる運命になく。別れる時に、最後だと関係を持ちました。これに後悔はありません」
そして口元を押さえて儚げに俯く。もう演技の限界である。
「殿下を裏切る形になり申し訳ありません」
「リリーにそんな……思いあっていた男性がいたなんて! 私にも相談して欲しかったよ」
いや、全くそんな人は存在しないんだけど。なんなら好きな人さえいた事ないですが。
殿下は発言しなく、わなわなと震えている。処女じゃないことに怒っているんだろうな。
「……申し訳ないが、君とは結婚できない! 失礼するよ」
殿下は怒りを露わにしながら屋敷を出ていった。
よっしゃぁぁぁぁ!! これで自由ぅぅ!!
嬉しさの余り、笑顔になるところだった。まだ仕上げがある。
——お父様の説得。
「お父様、王家に不敬な事をしてしまった私がここにいたら、ブルーノート公爵家に迷惑がかかります。どうか私を、廃嫡してください。私には辺境にあるお屋敷がありますので、そこでひっそりと余生を過ごします」
「いやっ……だがっ。可愛いリリーにそんな事できない。辺境の邸には、何も無いんだよ? そんなところで一人過ごさせる訳には……」
「私は大丈夫です。跡を継ぐお兄様に、迷惑をかける方が嫌です!」
「だが……リリーに会えなくなるのは寂しい」
「たまに遊びにきてください。ほとぼりが冷めたら、私もこっそりとブルーノート邸に遊びに来ますから」
どうにかお父様を説得し、家族と涙のお分けれをした後。辺境にある邸へと旅立った。
さすがに一人では心配だからと、幼い時から面倒を見てくれていたメイドのアンナと、執事のクリフとその奥さんのメリーもついて来てくれた。クリフは引退して息子に執事を譲って、ついて来てくれた。
幼い時からずっと一緒だった三人が、付いて来てくれると思ってなかったので、強い味方が居てくれる事が有り難い。
辺境にあるお屋敷までは、馬車で寝ずに走って三日間の道のり。合間合間にある村で寝泊まりし、五日かけて到着した。
「これが……今日から私の住処になるのね」
辺境にある屋敷は、想像以上にボロく……かなり修理が必要だった。
だけど、あんな王子に飼い殺しされるくらいなら、この方が楽しいわ!
到着して初めの一週間は、大掃除で終わった。
近くの村の人たちも協力してくれて、壁などの修繕工事も早く終わった。
「ふふっ、どうにか見違えたわね」
来た時とは見違えた屋敷を見ながら、外でティーを飲む。最高の時間ね。
後は、近くの村で買い物して家具を揃えたりしたいなぁ。
なんてのんびりと考えていた私。
まさかこの後、この辺境の地まで追いかけてくる人物がいるなんて、考えもしていなかった。
さらにその人物に振り回されることになるなんて!
この時の私、逃げるなら今よ!
こんなお話いいなぁっと急に思いつき。勢いのままに短編で書いて見ました!
少しでも面白いと思って頂けたなら★★★★★評価頂けると有り難いです。
ご希望があれば、時間がある時に長編化できたらなぁと考えています。
楽しんで頂けると嬉しいです。




