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2-06 ホラーゲームに転生した!……かもしれない

前世の記憶を持ったまま、男女の双子に産まれた美鈴。産まれたのは男女の双子は縁起が悪いと言い伝えられている時代だった。異世界ファンタジーかと疑うが、多分日本。明治か大正かわからないがそれくらい。双子の兄、世鈴と必死に生きていた美鈴だが、村が祀っている神様が邪神であることを知ってしまう。

(これって因習村だ。ホラーゲームだ!)

察するが、前世でプレイしたゲームと設定が該当しない。双子の兄と一緒に生き延びる為にはどうしたらいいのか。一体いつ本編が始まるのか。

何もわからない美鈴の生存戦略が始まる。


 私は美鈴。名字はない、ただの美鈴。

 隣に居るのは世鈴。私の双子の兄で、生まれる前から一緒に居た私の片割れ。

 そんな私達は、現在七歳。

 兄の小さな手が、私の手を痛いくらい握りしめていた。


 そもそも、双子というのは厄介だ。時代によって歓迎される地域もあれば、縁起が悪いと忌避される地域もある。

 そして残念なことに、私達が生まれた時代、そして村は、忌避される方だった。

 忌避されるのは双子だけでなく、生みの親も同じだ。一度に複数の子を生む女の腹は畜生腹と蔑まれ、生みの親ですら後ろ指を差された。しかもただの双子ではなく、産まれたのは男女の双子。厄ネタ満載だった。

 この村で男女の双子は、心中した恋人同士と信じられていた。

 心中とは、自ら命を絶つこと。天命を待たず、命を絶つのは罪である。自ら命を絶った罰として、彼らは結ばれることのない兄妹として生まれると言い伝えられている。

 つまり、男女の双子は罪人の生まれ変わりなのだ。


 とっても酷い言いがかりである。

 残念ながら、前世の私には一緒に死ぬような恋人はいなかった。死因は覚えていないが、恋人がいなかったのは確実である。

 そう、私には前世の記憶があった。

 何故か時代が退行しているが、未来を生きた記憶がある。双子云々はともかくとして、前世があるのは確かだった。それ以外はとっても酷い言いがかりだ。


 前世の記憶があるが故に精神的に大人な私は、畜生腹と蔑まれる母と、罪人の生まれ変わりと疎まれる兄を守る為、必死にフォローして回った。

 といってもあまり動きすぎて前世を疑われ、やはり罪人といわれても厄介。

 出来たのは心を病んで倒れた母の看病と、尊厳を踏み躙られる兄に寄り添い続けることくらいだった。あまりにも無力で何度も泣いた。


 ああ、せめて生まれたのが、未来だったら。


 少なくとも前世の記憶より未来なら、男女の双子など子育て大変だねと言われて終わる。なんなら喜ばれる。双子コーデなんて物があるくらい、世間で双子は受け入れられていた。

 どうして明らかに退化した文明に生まれてしまったのかはわからない。よくある異世界ファンタジー転生かと思ったが、村の様子があまりにも日本。しかも明治や大正という、そこそこ技術が発達してきた頃。

 正確な年号は知らないが、生まれた村は秘境と呼んでも申し分ない程度に山奥だ。だから文明開化に置いてけぼりにされている可能性も捨てきれない。本当に今、何年なんだ。

 私にとっては時代錯誤。村人達にとっては相応の価値観で、男女の双子はとても生きにくかった。


 生きにくいが生まれてすぐ処分されなかったのは、こんな村でも「七つまでは神のうち」という風習もあったからだ。


 医学が発達していなかった頃、免疫力の低い子供の生存率は低かった。いや、理由はたくさんあっただろう。飢饉や戦も理由の一つだ。とにかく幼児の死亡率が高かった時代、七つまでは神に近い存在として、大切に育てるという決まりがあった。

 神に近いのだから召されても仕方がない。神に近いのだから穢れを知らず、融通が利かず我が儘でも仕方がない。七つの頃には物事の善悪がわかるようになり、神から人へと近付くと信じられていた。

 だからこそ、たとえ罪人の生まれ変わりであろうとも、幼子として大事に育てられた。

 唯一の保護者である母が病で没しても。村の大人達から疎ましがられても。生命の危機を感じたことはなかった。


 ――今、この瞬間までは。


 その日は、村の七つの子を集めたお祝いが行われていた。

 身を清めて髪を結い、綺麗な着物を着せられた。貧しい村なりのご馳走が並び、太鼓の音や笛の音が響いていた。

 普段は薄汚れ、襤褸を着ていた私達も例外ではなかった。多少乱暴ながらも清められ、ちょっとぎゅうっときつめに帯を締められ、ご馳走が並んだ卓の端っこに座っていた。おずおずと食事をしても怒鳴られず、むしろもっと食べろとよそわれた。初めての体験に、世鈴は喜ぶどころか萎縮して小さくなっていた。私もだ。

 何が起きているのかわからず怖くて、ずっと世鈴と手を繋いでいた。


 そしてそのまま日が落ちて。

 街灯のない村は、あっという間に暗くなった。

 その夜道を、村人は松明を掲げながら進んだ。

 子供達と、より深い山奥へと。


『通りゃんせ通りゃんせ』


 暫くして老人達がしゃがれた声で歌い出し、私と世鈴はすっかり脅えていた。私たちだけじゃない。他の子供達も大人に引きずられるようにして夜道を進んだ。


『ここはどこの細道だ。――様の細道だ』


 前世で当たり前のように聞いた童謡。それが聞き覚えのない神様の名前だと気付いたときには遅かった。聞き覚えのない神様と、村の立地と、村人達の態度。自分たちがどこを歩いているのか察したときには、全てが遅かった。

 辿り着いたのは村の奥にある山を更に進んだ先にある、この村で神聖な存在が祭られている場所。

 子供は遊び場にするから近付いてはいけないと言われていた場所。この村の神様が眠る場所。七つの子は神のうち……七つの子を自由に出来る、神様の居る場所。


 そこにあったのは沼だった。

 黒い鳥居を抜けた先、鬱蒼とした沼地が私達を出迎えた。

 暗闇だからという言い訳だけでは誤魔化しきれない、不気味な程に重苦しい圧が、沼の底で蠢いているようだった。


 全然、神聖な場所だと思えない。

 ここはとても、怖い所だ。

 そこに、七つになった子供達が集められた。

 身体を綺麗に清めて、綺麗な服を着て、美味しい物をたらふく食べた子供が。


 ――沼の底で蠢いていたナニかが、顔を出す。


 私は察した。

 私達は、この日の為に生かされていたのだと。

 神聖だと言われた場所から現われた、どこからどう見ても邪悪な存在を前に、確信したのだ。


 悲鳴を上げたのは、他の子供だった。

 その悲鳴を皮切りに悲鳴が連鎖する。甲高い悲鳴を上げて、子供達が蜘蛛の子を散らすように駆け出した。

 大人達は動かない。老人達はしゃがれた声で童謡を歌い続けている。

 大人の持つ松明が濃い影を作り、右往左往する子供の影が地面で揺れた。その影が、不気味に伸びた影に刺し貫かれる。子供の影が折れ曲がり、首があり得ない方向にねじ切れた。

 子供だった影が、何かに引きずられていく。その間にも悲鳴は響き、途切れ、松明に照らされた子供達の影が一つ、また一つ減っていく。


 そして。

 私達二人が、残された。


 私達は、私と世鈴は、抱き合って震えていた。逃げ出すことも出来ず、脅威を前に必死に気配を消していた。隠れることも出来ないから、それは全く無意味だったけれど。

 大人の照らす松明の明かり。照らされる影は、くっついて一人分になった私達の物しかない。


 ぽちゃん。


 生臭い水滴が、私の頬に落ちた。

 沼から身を乗り出したナニかが、震える私達を覗き込んでいた。

 腐ったような、生乾きのような、鼻が曲がりそうな匂いに呼吸が止まる。匂いで溺れそうだった。

 それはぐるぐると私達の周りを、沼から首を伸ばして周回し……ゆっくり、沼に戻っていった。

 私達以外の子供を全て引きずりながら、沼の底へと帰って行った。


「おぉ……まさか、この子らが選ばれるとは」


 暫くして、しゃがれた老人の声が聞こえた。村長の声だ。


「神のうちから選ばれたからには、この子達が神の僕。その栄誉を誇りに、しっかりお役目に励みなさい」


 村長の声が、やけに耳につく。ドクドクと心臓が煩いのに、その言葉はすっと耳に届いた。

 恐怖で固まった私の身体は、世鈴に縋り付いて動かない。血の気の引いた顔で震えていた私は、世鈴の引きつるような呼吸に顔を上げた。


 世鈴は笑っていた。

 ぐらぐらと焦点の合わぬ目を見開いて、引きつるように笑っていた。

 狂気的な笑い方に、背筋が冷える。本能で、兄の精神が危険な状態なのがわかった。

 わかったけれど、抱きしめる以外のことが、私には出来ない。


 そんな私の焦りも知らず、村長は更に続けた。


「お前達のお役目は、客人をたくさん招き入れることだ。神様の為に、沢山の客人を連れてきなさい」


 その瞬間、私の頭が沢山の単語で埋め尽くされた。


 男女の双子。厄ネタ。信仰深い村人達。秘境の地。邪悪な神様。生贄。生き残った双子。お役目。客人――マレビト。


 全ての単語を繋げ合わせて連想されたのは、前世で遊んだゲームだった。


 そして気付く。

 ここは、ホラー時空だ。因習村だ。間違いない。ここは因習村。

 そして村人に課せられた私達の役目。客人を招くこと。つまり自分達には、客人を……いつか来る主人公を招き入れる役割がある。

 ということは、私達は、導入に必要なNPC。

 もしかしたら主人公の選択肢によってエンディングを大きく左右するキーキャラクター。

 声もなく笑い続ける世鈴の手を握りながら、私は自分の立ち位置に愕然とした。

 なんのホラーゲームなのか、心当たりが全く無くて。


(私、知らないホラーゲームに転生しちゃった……!)


 私の第二の人生は、思った以上に鬼畜ハードモードだった。

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紛うことなくホラー! 圧倒的ホラー!! しかもジェイソンなパワー系でなくて、人間には抗えないトゥルーエンドさえバッドエンド風なジャパニーズホラー!!! 美鈴ちゃん、がんばって。世鈴兄くんが乗っ取られラ…
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