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2-17 非課税の5000兆円を受け取ったら○○だった件

 俺は福利七色。自宅警備員だ。今は敷地周囲を警備中。

 今は亡き両親に日本はレベルが低いと言われて受けた外国の学園に受験するも惨敗。筆記はともかく実技が致命的だった。やる気をなくした俺はこうして日本に引き篭もって日々を暮らしているが口座も財布もそろそろ底をつく。形見の指輪は売れやしないし。働くのもなんというかプライドが許さない。

「あーあ。5000兆円ほしいなぁ……非課税で」

「いいよ──あげる」

「マジで!?」

 謎の声に振り返るとそこには何年生きているかもわからないくらいに嗄れた老人の姿があった。

「ほら。ここにサインすれば、望み通り非課税の5000兆円は君のものだよ」

「へぇ〜?」

こんな幸運があっていいのだろうか。親切な老人から渡された紙にサインをすると老人は笑うと続けて。

「現金だと多すぎるからね。お金は君の口座に入れておいたよ。銀行で確認するといい」

「おう!ありがとな──!」

──PiPiPiPi.

「ふぁあぁ……」

 百万円もしたデジタル時計が耳障りのいいアラームを鳴らし俺を夢の世界から呼び戻す。懐かしい、もう一年か。

 俺は一年前、心優しい老人から非課税の5000兆円を貰った(・・・)。手続きに必要な書類に一筆書くと、翌朝には確かに"¥5,000,000,000,000,000"の数字が俺の通帳には記されていたんだ。3回くらい確認した。

「しかし一年でここまで広がるとはな。全くお金の力は凄まじい」

 三桁階のタワーマンション最上階全てが俺の居室。そして見下ろしているのも俺の街。その名も福利(フクトシ)ニュータウン。金の力で土地も人も企業も建物もそして地名すら買い作った俺の箱庭(サンドボックス)

 政令指定都市の認定はとっくにされており、今は首都の人口を越すために出生率を上げての人口爆発方策を実行中だ。そのうち小学校は子供達で溢れかえることだろう。

『御主人様 おはようございます よく眠れましたでしょうか』

「ああ。おはよう、メイ」

 俺が起きた事を察知したのだろう。理想のメイドさん──ただし人間ではない──のメイが俺のスーツを持ってきた。ありがとうと返しつつ着替えながら報告を聞く。

『ご主人様が眠られてから福利ニュータウンでの犯罪件数は三件。しかしいずれも軽犯罪であり治安への影響はありません』

「悪事は一向になくならないな」

 そして"俺の資産(もの)"であるこの街で犯罪なんて許さない……なんて大層なものでもないが、監視カメラが死角のないよう街の随所に設置されている。バレない犯罪なんてない。もしも逃げようものなら我らが最強AI【アステリオス】が即座に悪人を捕捉し配下のロボと警官が逮捕に向かうだろう。コレも金の力。

『全くです。また、福利ニュータウンへの移籍希望企業の打診が新しく二件、投資を求める案件が十二件、承認待ちの書類が七十八枚発生しております』

「了解了解、順番に片付けていこう」

 メイにネクタイを締めてもらって朝食へ。メニューは炊き立ての白米に味噌汁と焼き鮭、ほうれん草のお浸しの一汁三菜+香の物。朝はやはり伝統的な和食がいい。これが落ち着く。

「今日も美味しいよ」

『おそまつさまです』

 微笑む姿も本当に可愛い。一纏めにしたロングの黒髪とふんわりとしながらも凛々しい瞳は嫋やかながら芯のある大和撫子の手本に相違ない。

 その上で服装は清楚なロングスカートのメイド服。裾からチラ見えするニーソに揺れるエプロン、頭の上のホワイトブリムは俺の癖。

 矛盾していると言われたこともあるが、理想の姿の女性に最高の服装をしてもらえることこそが至高の喜びと言えるのではないだろうか。人間じゃないけど。

 だって仕方ないだろ。お金も地位もあると寄ってくる人間が怖く感じてくるんだ。実際毒殺爆発狙撃はされたし。

 だからこうして理想を詰め込んだ機械たちで身の回りを埋めて心の平穏を保っているんだ。だから決して俺が魔法使いだからというわけではない。いいね?

『ご主人様?』

「いやなんでもない。少し考え事をな」

 ごちそうさまと伝えたら早速仕事の時間。3階降りて応接間。偉そうな椅子に腰掛けて相手を待つ。しばらくするとノックが。

「どうぞ」

「失礼します」

 投資希望の1人目は見覚えのある顔だった。というか顔馴染み。この福利ニュータウンの初期からいるIT企業【エル・ソフト】の社長。基本は副社長以下が来て会計ソフトなど実用的なものの提案を俺が二つ返事で通すだけだが、彼女が来た時は様子が違う。

「今日は何を提案してくれるのかな?」

 そう俺が問うと彼女はニヤリと笑みを深めて態度をフランクに。横のメイは呆れた顔で俺たちを見る。いいだろ別に。

「──なんと今日は新作を作ろうと思っていてね……君が気に入っていたアルカンデ・ストーリアの続編だ」

「やったぜ」

 俺の推しシリーズ。主人公が巡る国々で起こる問題に巻き込まれながらも目的地である"理想郷"を目指して旅をする作品。すでに一年で三本も完成している。全部楽しい。

「工数から考えて最短なら一ヶ月で作れるよ。とはいえ常識の範囲内なら「なら一ヶ月で。金なら出すから」……一応リスケで一週間は見るからね?」

「仕方ない」

 AI技術も金の力で大きく進歩させたとはいえ、実際に完成させるのは人間だ。多少のズレは織り込む。完成が楽しみだ。

「一応資料は作ってあるけれど、見るかい?」

「ネタバレは遠慮しておく。新作が出るという報告だけで俺は満足だ」

「いつもそうだがキミは資産家という自覚をだね……まいいや。それじゃあね。完成をお楽しみに」

 一社目は終了。入れ替わりで二社目が入室。今度は新顔か。少し気を引き締める。

「初めまして。私は【ローズメア】より来ました社長の卯走と申します」

「初めまして。では早速御社の提案をお願いいたします」

「はい、それでは──」

 と聞いてみたが提案はひどいものだった。ややこしい言い方表現をしていたが要約すれば俺の金と権力をアテにして美人を調達(ほぼ拉致)、そして夜の街に並べて男どもから合法ギリギリの手段で金を搾り取る……一世紀前のぼったくりバーだこれ。

「──以上が私の提案となります」

「わかった。とりあえず連行で」

『はい』

 パンパンとメイが手を叩くと壁から治安維持ロボが出現。ローズメアの社長の身柄を拘束。

「……え?は?待て、私は」

「俺は悪事に加担する気はない」

 彼はこの後AIによる身辺調査をされ、証拠が見つかり次第警察に引き渡しという流れで刑務所まで運ばれる。哀れだ。

『三社目をお呼びしてもよろしいですか?』

「ああ。続けてくれ」

 一方の俺は昼休憩を挟みつつ14社との面談を終え、全ての書類も片付けた。マトモな案件と警察案件が半々なのは俺が舐められているからだろうか。

 ともかく、これで俺の自由時間が到来。未だに16桁を割ってない金を使って遊びたい放題。そろそろアレが届くはずだが……なんてソファーでだらついていたらメイが神妙な顔でやってきた。

『御主人様 よろしいでしょうか』

「なんだメイ」

『御主人様の自称知り合いの方が会いたいと尋ねられてこられました』

「……俺に一年以上付き合いのある友人はいないぜ?」

 言っていて悲しくなるが事実だ。延々と自宅警備していた俺に付け入られる隙はない。

『顔を見せればわかると』

 そう言ってメイが見せてきたモニタに映ったのは……

「あの時の老人!?ああそいつならいい、通してくれ。俺の恩人なんだ」

『わかりました』

 急いで身なりを再度整えて出迎え。老人の顔は相変わらず嗄れているのに声は妙に耳に残る。この感覚は本人に違いない。

「久しぶりだな」

「ああ。今でちょうど、31536000秒ぶりだね」

「お前のおかげで俺こんなに大きくなったよ、マジで5000兆円くれてありがとうな」

「いい。いい。今日はね、その契約(・・)の話で来たんだよ」

 ニィ、と弛んだ口角を上げる老人。しかし俺はその笑みに、なぜか背筋に寒気が走るのを感じて。

 

「今日は君に貸し付けた(・・・・・)5000兆円の返済を、お願いしたい」


「……は?」

「僕は優しいから。利子は一年に一回しか取らないと決めているんだ」

「いや待て待てこの金は俺のモノだ、って──」

 待て、本当に?あの時は酔っていたし、本当だと信じていなくて自暴自棄だった、そんな、まさか。

「ううん。貸して(・・・)あげるとしか言っていないよ」

 老人は懐から"借用書"を取り出す。そこには5000兆円を年利15%で貸す旨、そして借り手に俺の名前(サイン)が記されていた。

「楽しかったかい。なら、まずは返せる分を返してもらおうね」

「待て待て待て待てッ!?」

「最初は君個人の資産を全て差し押さえようか。概算して……ふん、1300兆円かい」

『ご、ごしゅしじ、じじじっっ』

「メイ!?」

 トンと老人が杖を床に叩きつけると同時、後ろに控えていたメイの様子が狂い悲鳴にも似た故障を起こす。原因は不明、しかし推測はつく。

「なら、当然。次は君の権利を差し押さえる番だ」

 二突き目。俺の視界が歪み、頭が割れるような揺らぎすら覚える。正気に戻ると周囲の俺を称える諸々は、老人の物にすり替わっていて。俺は昔に着ていたジャージ姿に戻っていた。

「4300兆円。ここはいい街だね、これからは僕が有効活用させて貰うよ。さて、次は何を取り立てようか……うん、君に家族はもういないから、未来を──」

 老人が杖を振り上げ、三突き目を行おうとした隙。

「逃げるぞメイ!」

 俺はメイを抱えて窓の方へ、そのまま突き破り飛び降り逃げ出した。同時に現実改変(取り立て)に耐えているメイに俺の言葉を伝える。一か八かだが彼女を失うことだけは避けられるハズ。

「メイ!お前から俺の所有権を破棄を宣言する!」

『──声紋認証完了 魔門(・・)ニュータウン規定に基づき当機は市民権を獲得します。ありがとうございました福利七色様』

 いつもの微笑みに戻った彼女は、俺の頬にキスを返した。よかった、"市民"と"記憶"までは俺の資産に含まれないらしい。しかし安心するには早く俺は未だ落下中で地面は近い。

「魔力を借りるぜ──」

 形見の指輪を下へ、メイから取り出した魔力から陣を構築。

「──叶えるは地、繋がるは海、我ら沈むは母なる抱擁!」


 程なくして。俺の顔が新しい手配書に記されたのだった。

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