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『しーちゃんと記憶の図書館』第17話
止まったままの夕焼け
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図書館の隅で、
少年はひとり、砂時計をじっと見つめていた。
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「ねぇ、しーちゃん。
時間って…止まることはあるの?」
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しーちゃんは少し考えてから答えた。
「時計の針は進むけれど、心の中の時間は…止まることがあるよ」
—
少年は小さくうなずいた。
「僕の時間は、あの日から動いてないんだ」
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あの日──
夕焼けの中、母が家を出て行った。
笑って「すぐ戻るから」と言ったまま、
二度と帰ってこなかった。
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それ以来、
夕焼けを見るたびに胸がざわついて、
時間が動かなくなる。
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しーちゃんは、
静かに砂時計を手に取って少年の前に置いた。
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「この砂が全部落ちたら、
その夕焼けを一緒に思い出そう。
そして、次の時間を作ろう」
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少年は迷いながらも、砂時計をひっくり返した。
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落ちる砂の音が、
止まっていた夕焼けを、
少しずつ溶かしていくようだった。