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『しーちゃんと記憶の図書館』第16話
それぞれの砂時計
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妹の砂時計が図書館に置かれた日、
不思議と人が集まり始めた。
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砂時計は小さなガラスケースに収められ、
説明文にはこう書かれていた。
『時間は、心の灯を消さない。
想いは、流れの中で形を変えて残っていく。』
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ある青年は、
「僕は祖父に、もっと話を聞きたかった」と語った。
砂が落ちる様子を見ながら、
祖父との短い時間を思い出していた。
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中年の女性は、
「忙しさで、子どもと向き合う時間を逃してきた」と打ち明けた。
けれど今からでも遅くないと、静かに笑った。
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年配の男性は、
「戦地から帰った日、渡せなかった手紙がある」と言った。
その手紙は、封を切られぬまま胸ポケットにしまわれていた。
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しーちゃんは、
ひとりひとりの話に耳を傾けた。
砂の落ちる音が、まるで記憶の足音のように響いていた。
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「この砂時計は、時間を測る道具じゃないんだね」
少年がつぶやく。
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しーちゃんは頷いた。
「そう。これは“想いの温度”を残す道具なんだよ」
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その日、図書館には
さまざまな色の“時間”が、静かに並んだ。