表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/104

『しーちゃんと記憶の図書館』第11話

海辺の老人



花の咲く海辺は、

電車とバスを乗り継いで半日ほどの場所にあった。



白い砂浜の端に、

淡い紫のハマエンドウが点々と咲いている。



「この花だ…」

少年が駆け寄り、しゃがみこんで花を見つめた。



そのとき、背後から低い声がした。

「その花を探しに来たのかね」



振り向くと、

潮風で深く刻まれた顔の老人が立っていた。

麦わら帽子の下からのぞく目は、

どこか優しい光を帯びている。



しーちゃんが事情を話すと、

老人はゆっくりと砂浜に腰を下ろした。



「50年ほど前、この海辺に一人の娘が来たんだ。

 毎朝、この花のそばに座って、海を眺めていた」



少年が息をのむ。

「それって…妹さんですか?」



老人は小さくうなずいた。

「名前は知らない。

 ただ、この村では“星を待つ娘”と呼ばれていたよ」



しーちゃんはその言葉に

胸の奥がかすかに震えるのを感じた。



「星を待つ…娘?」



老人は、潮風に髪を揺らしながら続けた。

「彼女は、夜になると海辺に立って、

 ずっと空を見上げていたんだ。

 まるで、誰かを待っているようにな」



砂の上で、ハマエンドウの花が静かに揺れていた。

それは、50年前の時間を

そっと今へとつなげているようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ