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『しーちゃんと記憶の図書館』第104話
小さな画家のはじまり
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スケッチブックの前で、
ひとりの女の子がじっと立っていた。
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まだ背が低くて、
一番上の棚は見上げないと届かない。
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「これ……すごくきれい」
女の子は、ページをめくる手を止めなかった。
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「絵ってね、動物とお話できるんだよ」
後ろから聞こえた声に振り向くと、
しーちゃんがにこっと笑っていた。
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女の子は少し考えてから言った。
「じゃあ、私もお話してみたい」
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その日から、
女の子は図書館の一角で動物の絵を描き始めた。
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最初は大きな丸と小さな丸だけのクマ。
次は耳が大きすぎるウサギ。
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でも、ページを重ねるごとに、
その絵は少しずつ形になっていった。
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「描くたびに、動物たちが笑ってくれるみたい」
女の子はそう言って、
クレヨンの先をまた紙に走らせた。
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しーちゃんは、その絵を見て思った。
「ここからまた、新しい物語が生まれるんだね」