表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
合気ログイン!〜リアル武道家、オンライン世界で最強を極める〜  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/10

第7話 奈落の母コラナヴァ

奈落の底に口を開けた《ヘル=カタコンベ》は、プレイヤーたちの間でも悪名高きフィールドだった。音も光も吸い込むような深黒の洞窟。中に入れば、すぐに“記憶”が曖昧になるという。


「このダンジョン……本当に、死者の気配がある」


薄闇に包まれた空間を進みながら、イリスは自然と肩に力が入るのを感じていた。だが、隣を歩く宗一郎の足取りは、驚くほど穏やかで揺るがない。まるで、そこが道場の廊下ででもあるかのように。


「……先生。怖くないんですか?」


「怖くない、ではない。怖れを“流している”だけじゃ」


そう言って宗一郎は、ひとつ深く息を吐く。その気配が、まるで結界のように空間の澱みを和らげていく。


やがて、最奥の広間にたどり着いた。


そこにいたのは──無数のプレイヤーの亡骸で構成された、異形の存在。


《五災》第三体、《奈落の母コラナヴァ》。


巨大な胎のような肉塊から、腕や顔や足が幾重にも伸びていた。歪み、絡まり、なおも蠢くその体は、倒されたプレイヤーたちの“記憶”と“怨念”を栄養にしているという。


「おかえり……おかえりなさい……」


コラナヴァの声が響いた。まるで母が我が子を抱こうとするように、腐敗した腕が伸びてくる。


「違う……これは、愛じゃない」


イリスは魔法を詠唱しかけた──が、宗一郎が手で制した。


「まだじゃ。“気”を通せ」


「でも、あれは……!」


「魔で断てば、記憶は残る。だが、気で流せば、成仏させることもできる」


宗一郎はそっと一歩踏み出し、手を前に出した。虚空に向けて、静かに「礼」を取る。


すると、コラナヴァの無数の眼が、わずかに和らいだように見えた。


「……どうして、拒まないの」


「憎しみの流れは、止めてはならぬ。受け止め、導く。合気とは、そういうものじゃ」


宗一郎の“気”が、コラナヴァの中に流れ込んでいく。母なる存在の“痛み”と“執着”を、ただ黙って受け止めるように。


だが、次の瞬間──


「だまされるな! あれは偽物だ!」


突如、コラナヴァの肉体から、別の声が響いた。それはかつてこのゲーム内でイリスが倒した、旧知のライバル、レイガだった。彼の姿が、肉塊の一部から浮かび上がっている。


「えっ……レイガ!?」


「おまえのせいで、俺は死んだ! その力……魔法のすべてが憎い!」


コラナヴァはプレイヤーの記憶を“模写”し、情を揺さぶることで自壊させる“心攻撃”を行ってくるのだった。


イリスは咄嗟に詠唱しそうになる……だが、踏みとどまった。


──これは幻影。私の記憶が作った、呪縛。


震える指を組み、深く、ゆっくりと息を吸う。


「……私のせいじゃない。あなたが選んだ道で、あなたが散っただけ。私は……それでも、前に進む」


その瞬間、イリスの魔力が、初めて“気”と共鳴した。


彼女の周囲に漂う魔法書が、音もなく開き──静かに、光を放つ。


「《光円・導の舞》──」


それは、敵を焼く魔法ではなかった。悲しみを包み、光に還す術式。コラナヴァの無数の顔に、ひとつずつ微笑が浮かぶ。


やがて、母なる胎は、静かに崩れていった。


宗一郎が呟く。


「……よく、気を通したな。今のは、おぬしの心が“流れ”を導いたのじゃ」


イリスは、涙を拭きながら微笑んだ。


「……わかる気がします。魔法は、“壊す”ものじゃない。“還す”ものにもなれるんだって」


宗一郎は小さく頷いた。


こうして、《五災》第三体は封印され、紫のローブの少女は、また一歩、合気の“心”へと近づいていった。


──そして次なる災厄が、空に現れる。


《爆雷天グロズマ・ザーン》。雷の竜が、大気を震わせて、彼らを待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ