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オーダー【筆師が愛した顔】  作者: 三愛 紫月


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3/7

筆を使えるもの

 青葉先生は、僕を見つめて。

「じゃあ、やってみてくれるかな?」と話した。


「はい」


 僕は、言われた通りに真麻さんの鼻に筆を当てて動かしていく。


「できました」


 青葉先生に言われた通りにやると、まるで、魔法のように綺麗に鼻筋が通った。


ーーパチパチ

ーーパチパチ


 青葉先生は、隣で大きな拍手をして

「君は、紛れもなくオリジナルだ!これで、証明された。おめでとう」と言って笑ってくれる。


 暫くして、手を叩くのをやめて、青葉先生は真麻さんの鼻を触りながらうんうんと頷いていた。


「では、失礼します」

「ああ」


 真麻さんは、頭を下げて部屋から出て行く。

 それを見てすぐに、僕は青葉先生に筆を渡した。


「青葉先生」

「先生は、いらないよ」

「それじゃあ、青葉さんで。あの……」

「今の筆のことが気になる?」

「はい」

「これはね、オーダーメイドじゃない人間にしか使えないものなんだ。それを使えるのは特別な人間で、夏目君や私のように端正な顔立ちをしたオリジナルの人間にしか扱うことができない」

 

 青葉さんは、僕が返した筆を見つめている。

 オリジナル……。

 青葉さんが証明してくれたこの顔なら、筆が使える。

 だけど。

 眉を寄せた僕の顔に気づいたのか、青葉さんは話を続ける。


「夏目君も知っている通り、過去の美容整形なら、施術を受ける側は相当なお金や身体的負担もかかっていた。しかし、今は違う。目を二重にするの何か僅か500円で出来る。痛みも腫れもない」

「安いですね」

「ああ、安いよ。そして、何より医師免許もいらない。ただ、顔が綺麗なオリジナルってだけでなれる。しかも、収入は世の中の平均よりも多いんだ」

「平均って、だいたい12万ぐらいですよね」

「そうだね」

「それよりも、多いって凄いですね」

「まあ、稼いだ所で何をするわけでもないんだけどね」


 青葉さんは、笑いながら筆をアタッシュケースにしまう。

 青葉さんの言葉の意味を僕も知っている。


 お金を稼いだところで、今は、昔とは違う。

 今の世の中はお金が少なくても生きていける時代だから。

 使い道がないのは、誰にだってわかっている。


 だって、今は。 

 スマホは、無料で国から支給されているし……。


 ガス、電気、水道は、国から支給されてくるチケットを消費して支払う仕組みに変わったし。


 僕のような独り身には、一ヶ月分の光熱費代のチケットが二万円分渡されてる。

 僕は、それだけで、充分足りるのだ。


 車は、ガソリン車ではなくなり、どういう原理か空気の力をエネルギーにして走っているのだという。


 食べ物は、月に一回、国からの配給が届くようになっていて。

 苦手なものやアレルギー食材などは、最初から排除されている。


 最初は、国に管理されていると抵抗もあったし。

 嫌だって声もたくさんあがった。

 だけど、始まってしまえばみんなすぐに、この生活を受け入れた。

 日々の生活だけで、大変な人は世の中にたくさんいるこの国だから。

 生活するお金を払ってもらえるだけで生きやすいのだ。

 働いたお金をみんなが使うのは、足りないものや嗜好品にだけだ。

 

 チケット制度になってから、税金ってやつもなくなっている。

 素晴らしいことのように聞こえるが。

 いいことばかりではない。

 税金をとらない変わりに、嗜好品と呼ばれる類いの価格がかなり高くなったのだ。



 煙草は、一箱三万円、お酒は缶ビール一本が一万もする。

 お金を使うことがないお陰で。

 それでも、売れるのだ。


 今、この国では、煙草とお酒を作れる人間は、平均月収以上を稼いでると言われている。


 もちろん。

 そんな高価なものを買えない人の方が大半だ。

 僕のような、貧乏人や。

 庶民である人達が、唯一飲めるお酒は居酒屋にだけ存在する。

 居酒屋で出されるお酒は、普通のとは違う。


 居酒屋で提供されるお酒は、一杯たったの1000円だ!

 1000円だって、高額だけど。

 嗜好品であるお酒にしては、安いものなのだ。


 初めは、なかったのだけれど。

 暴動をきっかけに開発してくれたのだ。

 

 お酒の中身は、政府が独自に開発した特殊なものになる。

 

 僕のような貧乏人や庶民が気軽に飲めるようにと……。

 

 そのお酒は、濃い青色をしていて【そら】と名付けられている。


 名前の綺麗さと、中身は全く違う。


 見た目は、ドロドロのアメーバみたいな液体をしていて、それを炭酸やお湯や水で10倍に薄めるのだ。


 まあ、提供される時には綺麗な水色をしたさらさらの液体なんだけど。

 原液を見ると飲むのを少し控えたくはなる。

 だけど、僕達が飲めるお酒なんて。


「夏目君?ボッーとしてる?」

「あっ、すみません」


 青葉先生に、声をかけられて我に返る。

 先生なら、きっと。

 高価なお酒を飲んでいるんだろうな。


「今日は疲れただろう。一緒に飲みに行こうか?夏目君」

「飲みにですか?」

「嫌だったかな?」

「いえ、行きます」


 僕の心の声が、青葉先生にばれているようだ。


「バイト先には、私から話をしておくよ」

「お願いします」

「さて、もう閉店しよう」



 青葉さんは手際よく片付けをし始める。

 僕は、この場所で、必要とされるのだろうか?

 青葉さんみたいなすごい人になれるのだろうか?



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