(株)千木リース (6)当日
お化け屋敷と揶揄される事務所に、当人たちが集まったのはそれから3日後のことだった。薄暗い部屋には、一つの棺桶が設置され、中には大量の石とマネキンが一体安置された。加えて、自分は斎服、依頼者はそれぞれ喪服と白装束と神事と葬式が組み合わさったなんとも言えぬ面妖な雰囲気となった。
玲子さん曰く、中長期間の賃貸契約を社長不在で行うともなれば、それになりの準備も必要であり、結果用意された代物だという。まあ、言われた所で登用僅か数日の自分には、その違いなど分からず、ただただ不気味なだけなのだが。
宗教もバラバラで、異様な雰囲気は依頼者二人にも不安を抱かせているのは火を見るより明らかである。
「本当に合ってるんですか?これで」
「大丈夫、何回もやってきたことだし、今更間違わないって」
あっけらかんと言い放った彼女を見て、理解は出来ないが納得はした。経験のある彼女が心配するなというのだから大丈夫なのだろう。
「えー不気味な空間で、困惑されているとは思いますが、改めて本日はご足労頂きありがとうございます。本日、この場において正式に契約の締結とその履行とを行わせていただきます。再度契約内容の確認と誓約書に目を通していただき、不備がなければ、判を頂戴いたします。」
彼女らは契約書を一通り一瞥すると、持参した印鑑で判を押した。内心、こんな契約を締結するのが不安でないのかと思ってはいたが、顧客へ不信感を抱かせるような行為はすべきではないととどまった。
「それでは、契約成立ということで、これから契約内容の履行をさせていただきます。」
発言と同時に、それぞれに白と黒の布で目隠しをしてもらい、棺桶の前に一列に正座させる。それが終わると、玲子さんの指示通り、報酬の一部と大型のクーラーボックスを中心に設置し、自分は部屋の隅に引いた。
それを見ると玲子さんがゆっりと、二人に相対するように地面に腰掛け、自分にしたのと同じようにそれぞれの片手を頭におかせた。
「期限は1年。賃貸品は彼女の求める物。代価は金。返礼はまぐろ。死をもたらさず、生して預らせ。」
言葉と同時に、彼女らの重心が中央にそれる。自分は一瞬だったが、期限が関係するのか、数分間彼女らは肩に座る何かの重みに反抗し続けた。
同時に、クーラーボックスは小刻みに揺れ続け、中にあるご褒美をしゃぶりつくすかのようにくちゃくちゃと音を立ててほうばっていた。見えないが、音や陰から獣の類であることは察しが付く。
数分の後、彼女らの重みと同時に金が消え、異様な雰囲気も去って行った。残ったのは、下腹部の違和感と掃除する者のことなどお構いなしの残飯だけであった。




