え?為輔がここに…来る?!
一説によれば40人あまりが刑死、流罪になったとのこと。則子は自分はともかく、その累が眼前の家持や我子為輔に及ぶのを恐れていたのでした。
「困ったお人じゃ。気にせんでいいと云うに!道鏡と云えど人の子、そなたのような媼までは手にかけまい
。そなたのお子、為輔殿も今は石上家の人間、お沙汰はない筈じゃ。そもそもこの地大宰府でそなたに巡りおうた時以来、何度も口繁く、庵住まいなど辞めて我が邸に参れと云うに頑として聞かぬ。則子殿、そなたは身を引き過ぎる」
「あいすみませぬ。旅人様以来身に過ぎる御恩をいただいてまいりまして……これ以上、この世に要らぬ婆めのことでご迷惑をお掛けすることは、この則子、心外のかぎりでございます」
「馬鹿なことを。誰が迷惑をかけているのです?乳母のあなたに孝養を尽くさせぬ方が私にはよほど辛い。世間に後ろ指を指されることになる」
「お許しください」
「婆殿……やはりあなたのお子、為輔殿を気使うか」
「為輔のみならず、若様、あなたのことが……どうかお許しください(泣く)……」
「わかりました。もはや云いますまい。お気を静められよ。それでな、婆殿、実はいまひとつ大事なことを伝えねばならぬ。今よりひとつきの後、私の代わりに大宰府少弐として来られるお方が、実は石上高嗣様なのじゃ」
「えっ!?高嗣様が?ここに……?」
「さよう。のみならず、いまは石上家家令のあなたのお子、為輔殿も随行されるとの由、本日都よりの伝令の書の中に、高嗣様自身の手紙としてあった。婆殿、為輔殿が来られるのじゃ、ここに!」
「た、為輔が……こ、此処に……(感極まって泣く)」
「婆殿、嬉しかろうの?お子とは何年ぶりの再会となるのじゃ?」