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わが心なぐさめかねつ  作者: 多谷昇太
不如帰(ほととぎす)
23/26

我が子はぐくめ天(あめ)の鶴群(たづむら)

「少弐様、これなるは里の婆めにてございます」と村長・宮司同様に口上を始める則子に宮司があわてて咳払いをいたします。いまだ嘗て巫女が口上をするなど前例がなく、巫女はただ水を捧げればいいまでのこと。その折りの所作を教えこそすれ口上をせよなどとは一言も申しておりません。この仕来りを弁えぬ則子を責めてのことですが、これを村長が制します。わざわざの指名にはきっとなにかわけがあるにちがいないと読んでいた村長、宮司の袖を引いてこれを諌め、口上を続けるよう則子に目で合図をいたします。それに軽くうなずいて則子が、

「少弐様、わたくしめのあなた様への感謝と、真心を込めましてこの水を奉りたく、老醜をもかえりみず御前へと進み出ました。どうかお口汚しのほどを…」

その則子を敬服の目で見やりつつ高嗣は「うむ」とばかり頷いて柄杓をば受け取りますとこれを一気に飲み干します。

「…ああ、うまし!こよなし!‘旅人をはぐくむ’味こそする。これ、為介!こよなき‘母’のみ心とも思う、この御一献を、そなたもいただきやれ」と為介の名をばはっきりと云って互いが母子おやこであることを明言して見せます…。

えー、中途して恐縮ですが「‘旅人をはぐくむ味’こそする」という高嗣のセリフは同時代の和歌で「旅人の宿せる野に霜ふらば我が子はぐくめあめ鶴群たづむら」なる、子を思う母の気持ちを歌った名歌があるのです。意訳すれば「ああ、鶴となって我が子のもとに舞い降りて行き、翼で覆って暖めてあげたい、霜から守ってあげたい」となりましょうか。遣唐使として大陸に渡った子を慈しむ、せつないまでの母の名歌ではあります。これを知っている高嗣の和歌への薀蓄が知れようというものです。同時にわたくしのそれも…。


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