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わが心なぐさめかねつ  作者: 多谷昇太
大野の月
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則子の最後のわがまま

「若様、どうぞ為輔めを広いお心で見てくださいませ。母が拙いばかりに家を変え、名を変えて、どれだけ心細く、なさけない思いをしたことか。大人になってからも石上家の意向を常気にせねばならず、消息知れぬ母がいきなり現れたとて何をか致せましょう。この間若様から聞かされた、為輔の嫡男が此度石上傍系の家に入婿いりむこするとの由。ならば今さらの乞食こつじき然とした母の出現が、どれほど心苦しいことでしょうか、私にはよくよくわかります」

「(溜息ひとつ)私にはわからぬ、わからぬ。子が親に孝養を尽くすのは当然のこと。ましてあなたのような、御自分のすべてを捧げたような母であるならば……遺憾ながら高嗣様御一行はすでに奈良を立たれたと聞く。向こうで私が会って、為輔殿の人品を量ることもできぬ。それが無念じゃ」

「おおせのこと、万端ありがたく承りましてございます。それを踏まえた上でなお為輔を待ちとうございます。この眼で見、この耳で聞いて、我が子為輔の形を確かめとうございます。不足があろうともすべては私の責任。それを受け入れてあげたい。どうか若様、則子めの最後のわがままと思って、お聞き届けのほどお願い申しあげまする」

「相わかった。つくづく感じ入りました。まこと為輔殿はよき母をお持ちじゃ。心行くまでお子との再会を果たされよ。高嗣様もあなたを見たい、会いたいと書に認められていた。かの方とも心行くまで語り明かされるがよい。なお、そなたへの封戸(ふうこ※貴人に食と労力の提供を義務付けられた農民、下人。貴人に禄として与えられる)は……」

と云いかけたところで庵の前から人のせき払いがいたします。

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