63 それから③
「お久しぶりです」
「う……ウサギ姫?」
「はい、キャラメリアでございます。こちらで暮らすときはハナと名乗る予定ですわ」
「そうですか……それは……おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「アヤナミ……喰うなよ」
「もう喰ろうたわ!なかなかに良き味だった」
ウサギ姫が真っ赤になって俯いた。
あ……そういうこと?
平気な顔でアヤナミがサーフェスに聞いた。
「お主はどうする?」
「僕はトオルのお祖父様の弟子になろうかと思ってる」
僕は驚いてサーフェスを見た。
「だって、君は継ぐ気が無いだろう?それにあの剣の切れ味……惚れないわけがない」
「そうなのか……頑張ってくれ、サーフェス」
僕はなぜか物凄く安心した。
クサナギさんがサーフェスに聞いた。
「兄上は如何お過ごしですか」
「元気にしておられますよ。ゆったりと鎮座ましまして毎日神らしい暮らしぶりです」
「ああ、酒池肉林ですか。さすが兄上」
ん? 酒池肉林? 神らしい?
僕が口を開こうとしたとき、ミーヤさんが目を覚ました。
パチッと目が合った僕は、口から出そうになる心臓を押さえるのがやっとだった。
「まあ……あなたは……」
僕たちは暫し無言で見つめあってしまった。
ゴホンとサーフェスが咳き込み、低い声で言った。
「ミーヤ、兄者は修行に出る。トオルとクサナギが暮らす家で世話をせよ」
「畏まりました、兄上様」
「えっえっえぇぇぇぇぇぇ~」
サーフェスがニヤッと笑った。
「心配するな。ミーヤがお前に心を寄せるまで指一本触れらえないよう加護を与えてある」
「そ……それはそれで……辛い」
「「「修行だ」」」
サーフェスとアヤナミとクサナギさんが声をそろえた。
花さんとミーヤさんも笑っている。
僕だけ人間……なんか物凄く不利な状況だ。
「さあ、俺たちはもう行くぞ」
アヤナミがハナさんを抱き上げて言った。
「元気でね」
「ああ」
アヤナミが消えると、サーフェスも立ち上がる。
「僕も行くよ。まあ、帰省したら会えるから」
「そうだね。サーフェスも頑張ってね」
「ありがとう。では、ミーヤ。迷惑をかけるでないぞ」
「はい、兄上様」
サーフェスも消えた。
クサナギさんが明るい声で言う。
「それではミーヤさん、私たちも帰りましょう。あなたの部屋をしつらえなくてはいけませんからね。トオル君はどうする?」
「ぼ……僕も行きますよ!行くに決まってるでしょ!」
「そう?別に手は出さないよ?」
「出されてたまるか!」
僕は白衣を脱ぎすてて鞄を掴み、その勢いでミーヤさんの手も掴んだ。
前途多難だが、絶対に楽しい毎日になる!
だって君を見た瞬間にわかったんだ。
僕の魂は君に出会うためだけに存在していたんだってね。
おわり




