61 それから①
夏休みが終わるまで、僕は出雲に居た。
山上教授は迎えに来た助手に引き摺られるようにして大学に戻って行った。
アヤナミは一度ウサギの国にヤマトタケルの入った石を戻してすぐに帰ってきた。
「ほれ!」
アヤナミが僕の目の前に指先で挟んだ石を突き出した。
「キレイだねぇ。紫色?いや、青?」
「竜胆色だ」
「りんどう?」
「ああ、竜の胆と書くだろ?年と共に薄くなるが、父竜の石も始めはこの色だったはずだ」
「そうなんだ……まだ新しいからこんなにキレイなんだね。君の胆もこんな色?」
「見たことないから知らん」
「そりゃそうだね」
ふとアヤナミが真剣な顔になる。
「クサナギ剣を戻しに行くぞ」
「ああ、そうだね。でも熱田神宮にも皇居にも入れるわけないじゃん。どうするの?」
「近くまで持って行って自分で行ってもらう。龍脈を使えば簡単だ」
「丁度いいところに龍脈があるの?」
「逆だ。龍脈のある所に神宮も皇居もあるんだ。日本人ってそんな事も忘れてるのか?」
「忘れてるって言うか、まったく知らない」
「あの山上とかいう教授に抗議しよう。まったく……教育者の怠慢だ」
「ちょっと違うような気もするけど……じゃあすぐに行く?」
「ああ、お前が帰る途中で寄ろう。それはそうとお前って勉強は?」
「うっ……ぜんぜん進んでない」
「アヤナミに聞いたが、受験生って奴なんだろ?どうするんだ」
「どうしようもないよ。一年浪人覚悟だな」
その時小さな地響きがして辺りがスッと暗くなった。
アヤナミがニヤニヤしながら見まわして口を開く。
「おお!神の魂がお怒りだぞ」
「ええ?」
ドンという音と共に、衣袴姿のクサナギさんが現れた。
「聞き捨てならんな、トオル君」
「ク……クサナギさん?」
「アヤナミさん。私を戻すのはあと半年待ってくれ。トオル君の受験が終わるまでは離れるわけにはいかない」
「ああ、いいぞ?俺は別にいつでもいいんだ。でもトオルは寮に入るらしいぞ?家庭教師とか無理じゃね?」
「寮には入れない。あんなところでは勉強にならないからね。住むところは私が用意する」
僕はちょっと引いた。
「クサナギさん?」
「なんだい?」
「えっと……護国神とか三種の神器とかいろいろ忙しいんじゃない?」
「今まで無くてもなんとかなったんだ。別に大丈夫さ」
「そりゃそうかも知れないけど……」
「日本国安泰のために、トオル君、希望校一発合格だ」
僕の双肩に日本の未来が託された?
そんなバカな……。
僕が青くなっている時、明美さんがごはんが出来たと呼びに来た。
二人はさっさと部屋を出る。
アヤナミなんかスキップまでしてるよ。




