60 帰還
真っ暗な空間をたった一人でひたすら飛ぶのはなかなかスリリングだ。
僕はずっとお祖父様の家を思い描き、アヤナミ入りの石を握りしめていた。
もしここで襲われたら僕は終わりだけど、なぜかそんな恐怖は無かった。
今度こそと気合を入れたが、やっぱり顔から突っ込んだ。
口の中に血の味がする。
ふと気づくと、持って行ったDバッグを忘れてきていた。
「サーフェス、山菜おこわに気づくかな」
そんな事をぼんやり考えていたら、お祖父様と山上教授、それに山下さんと明美さんと美佐子さんが駆け寄ってくるのが見えた。
「はぁぁぁ帰ってきたあぁぁぁぁ」
僕は一気に緊張がほぐれ、そこで意識を手放したらしい。
目覚めたら布団の中だった。
枕元には明美さんが座っている。
「た……ただいま」
「トオルさん……お帰りなさい」
「お祖父様は?」
「山上教授と御祈禱にいっておられますよ」
「そうですか。心配かけちゃった」
「ええ、とても心配しました。出掛けたときは確か三人だったのに、お一人で戻られたのですね」
「いいえ、抜けたのはサーフェスだけです。そう言えば僕が握っていた石は?」
「これですか?」
そう言うと明美さんは、床の間に置かれていた石を持ってきた。
「そうそう、これです。この中にアヤナミが入ってますよ。ついでにヤマトタケルの魂も入ってます」
「ふふふ、それだけ冗談が言えるなら大丈夫ですね。お腹は空いていませんか?トオルさんの大好きなチキンジンジャーならすぐにできますよ」
「ありがとう。お腹は空いてます」
僕はアヤナミの入った石を撫でながら言った。
すると急に石が熱を持ち、頭の中に声が響いた。
『吾も喰う』
僕は頷いて明美さんに言った。
「明美さん、アヤナミも食べるって言ってますから10人前お願いします」
明美さんはニコッと笑って部屋を出た。
「アヤナミ、出て来いよ」
「行ったか?」
「うん、今は僕一人」
アヤナミが姿を現した。
よく見るとアヤナミはボロボロだった。
「大丈夫?」
「ああ、さすがにちと苦労はしたが見事封印していやったさ」
「凄いね」
「凄いのはお前だ、トオル。吾らは神だがお前は生身の人間だからな。例えるなら巨象と蟻が同等の戦いをしたようなものだ」
「分かり易いけど酷くない? 蟻って」
「本当はそれよりももっと開きはあるのだぞ?」
そう言ってアヤナミは僕の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「その石ってどうするの?」
「持ち帰り父竜にお返しする。これは借りものだからな」
「そうなんだ。大事なものなんだね」
「ああ、一神一有の器だからな。俺はまだ持ってないんだ。だから父竜が貸して下さった」
「へぇ、凄いものなんだね」
「ああ、いずれは持つがな。自池と一緒に託されるんだ」
「なるほど。アヤナミはどこの池にするか決めたの?」
「ああ、決めた」
そう言ってアヤナミは悪戯っぽく笑った。




