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6 サーフェスの家 

 サーフェスの言葉は僕にとってとてもうれしいものだった。


「勿論そのつもりだよ。最初に約束したじゃないか」


「覚えていてくれたの。ありがとう。それと出雲に行く前に寄りたいところがあるんだ。君も喜ぶと思うんだけど」


「うん。どこ?」


「奈良だ。山上教授のところ」


「えっっっ!」


「山上教授の書いた日本古代史について、感想と疑問点と僕の意見を書いて送ったんだ。彼は誠実な人だねぇ。ゆっくり話をしたいって返事をくれてね。夏休みになったらお伺いすると返事をしておいた」


「サーフェス?マジで?僕も一緒で…良いの?」


「勿論だよ。山上教授の話しも楽しみだけれど、僕にとっては彼に君を紹介するのも目的の一つだ。それにどうしても確かめなくてはいけないことがあるからね」


「確かめたいこと?」


「ああ」


 そう言ったきりサーフェスは話題を変えてしまった。

 僕は憧れの山上教授のお話しを直接聞けることで舞い上がってしまい、家で待っている面倒事をすっかり忘れていた。


「じゃあね」


 いつものように丘への道を駆け上がるサーフェスを見送り家に急いだ。

 車寄せに停まっている大きな外国車を見て、僕は小さく悲鳴を上げた。


「やべっ!今日だった…」


 今日は父さんが来ると聞いていたんだ。

 もう十年くらい会ってもいない父さんが、わざわざ戻ってくる理由は母さんとの離婚だ。

 お互い好き勝手しているのに、今更離婚だなんて不思議に思っていたら、玄関前で僕を待ってくれていた山下さんが、その理由を教えてくれた。


「愛人の方が妊娠されたそうで、入籍してこの家に戻りたいそうですよ。奥様は離婚するなら慰謝料をとおっしゃって。お互い様だろうってことで揉めているというわけです。今日は直接対決という感じですな」


「え?慰謝料ってどっちもどっちじゃない…もしかしてうちってお金が無いの?」


「いえいえ、十分にありますよ?ご心配なく」


「では払えば済む話でしょう?まあ今更帰ってこられても困るけど」


「はははっ!トオルさんは同席しなくても大丈夫ですよ。早めに夕食をとって海辺にでもお散歩に行かれては如何ですか?」


「そういうことならこのまま返らずに出掛けます。十時までには帰ってきますね。夕食は適当にすませますから。帰ってもまだいるようなら裏口から入りますよ」


「承知しました。裏口の鍵は開けておきますからご心配なく。トオルさん、知らない人について行っては行けませんよ?お菓子をくれると言われても断ってください」


「なっ!うっっ…わかりました」


 僕はバカバカしくなって、今しがた帰って来た道を引き返した。

 学校に行っても入れるはずもなく、近くのコンビニかファミレスで時間を潰そうと考えていたら、丘の上の展望台の中に仄かな明りが見えた。


「ん?なんだ?」


 僕はなぜか物凄く気になって、丘への道を進んだ。

 確かサーフェスはこの辺りに住んでいるんだったなぁなどと考えながら、天文台への案内板のところで曲がる、草が茂った小道を上がった。

 その看板は木でできていたのか、もう字も読めないほど朽ちていた。

 

「子供の時に山下さんに連れてきてもらったっけ。天文台って古代日本では占星台って言われてたんだよなぁ。最後に来たのっていつ頃だけ?」


 誰にともなく口に出していると、天文台の屋根から明りがシュッと漏れた。

 それは天文台から発せられたというより、天文台に入っていたように見えた。

 

「なんだ?あれ」


 僕は鼓動が早くなるのを自覚しながらも、近づくことを止められなかった。

 懐かしいような恐ろしいような、朽ちかけた扉の前に立つ。

 扉はしまっているが、鍵はかかっていないようだ。

 重そうな鉄の扉を押すと、意外とすんなり開いた。


「誰かいるの?」


 返事は無かったが、望遠鏡が置かれていたステージの後ろでコトッと音がした。


「誰?」


「…僕だよ」


 その声の主は予想通りの人物だった。

 なぜ僕は彼がいることを予感していたのだろう。


「サーフェス…」


「隠していたわけではないけれど、君が聞いてこないから」


「ここに?住んでるわけじゃないよね?」


「住んではいないけれど拠点にはしているよ」


「拠点?」


「ああ、まあこっちに来いよ。お菓子もあるしジュースもあるよ」


 そう言われて一歩踏み出した僕は、さっき山下さんに言われた言葉を思い出して笑ってしまった。


「お菓子をくれるっていう人について行ってはダメだと言われたばかりだ」


「なんだ?それ」


 サーフェスは本当に意味が分からないという顔をしながらもにこやかに手招きをした。


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