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58 孤独

 自分一人ではないけれど、独りぼっちで暗闇の中じっとしているのはかなり辛い。

 アヤナミの呼吸は比較的安定してきて、時々漏れていた呻き声も聞こえない。

 原因はこの地の邪気だとはわかっていても、忘れたころに揺れる地面に生きた心地はしなかった。


「アヤナミ」


 声に出して呼んでみる。

 どこかの木々が風に揺れて心を泡立たせた。

 静かすぎて耳の奥でキーンという音が煩い。

 歌でも口ずさめば少しはこの緊張がほぐれるだろうか?


 僕はアヤナミの首を握りつぶそうとしていたあの黒い手首を思い出した。

 僕の振るったオオクニヌシは、見事に命中してヤマトタケルの魂を分断したはずだ。

 手首以外のそれは、黒い邪気の粒子と一緒に禍々しいあの池に沈んだ。


 魂って溶けるんだろうか?

 それにしてもフッ化水素酸らしきあの池が蒸気を発していなくて助かった。

 もし気温が高い状態だったらマジでヤバかった。

 それにしてもアヤナミは平気で池の様子を見てきたよな?

 竜神って不死身か?

 だったらなぜ今これほどまでにアヤナミは弱っているんだ?

 そんなことを考えていた僕の脳の中にふっくんの声が響いた。


『怪しい気配だ。小さすぎて掴み切れんが殺気が漂っている』


 僕はオオクニヌシ剣を握りしめた。

 アヤナミだけはどうやっても守って見せる。

 僕はそう決心していた。

 ふと後ろで何かが動く気配がした。

 真っ暗すぎて何も見えないのは分かっているのに、僕は反射的に振り返った。

 何かが僕の首を掴んだ。

 く……苦しい……


「手を……は……はな……せ」


 獣の様な気配だ。

 僕はのびている何かを両手で掴み引き剝がそうとした。

 びくともしない。


『飛べ!』


 オオクニヌシの声に僕は渾身の力で飛び上がった。

 首をつかんでいる何かも一緒に飛んでいる。

 粒子が巻き付いている感じではないから、他の生命体?

 でも飛べるということは神の血を持っているということだ。

 今この次元に個体として存在しているのは僕を含めて3人だ。

 ヤマトタケルは手首から先しかないはず……。


「アヤナミ……」


 すごい力で掴まれてはいるが、絞め殺そうとしているような掴み方ではない。

 どちらっかと言うと首根っこを掴まれているような?

 歯を食いしばり飛び続ける僕の目に、山際を染める朝日が映った。

 もう少し我慢できれば正体が掴める……そう思ったとき、オオクニヌシの声が聞こえた。


『竜神だ。手を伸ばして吾を握れ。竜神を刺し貫け』


「嫌だ! アヤナミは友達だ! 絶対に嫌だ」


『そんな甘いことを言っているからこのような目に合っているということが分からんのか。先の争いの時に、お前がそこな竜神を落としておれば良かったのだ』


「うるさい! うるさい! うるさい!」


 僕の首を絞めている手の力が徐々に弱まってきた。

 一気に反転すれば振り解けるかもしれない。

 僕は体を丸めて空中で前転をした。

 緩んでいた手が僕から離れた瞬間、僕は足を後ろに伸ばして蹴りあげた。

 

「アヤナミ……なぜ?」


「ぐっ……」


 アヤナミが腹をさすりながらこちらを睨んでいる。


「どうしたんだ! アヤナミ! お前……目が……」


 アヤナミの金色だった目が真っ赤に染まり、血の涙を流している。

 背負っている大剣はそのままに、クサナギ剣を握っているアヤナミ。

 呆然とする僕の眼前に、アヤナミが突撃してきた。


「アヤナミ!」


 寸でのところで回避して、体を反転させた僕は叫んだ。


「正気に戻れ!」


「……ぐっ……ぐっ」


 アヤナミは物凄く苦しそうな顔をしている。

 僕はオオクニヌシを構えた。

 アヤナミの突き出す攻撃はマジで鋭い。

 冗談や遊びではなく、本気で僕を殺そうとしているんだ……アヤナミ?


『やらなければやられるだけだぞ?アツタノミコ』


 この期に及んで僕の魂に揺さぶりをかけるオオクニヌシ。

 僕はこいつが嫌いかもしれない。

 

「黙ってろ!」


 アヤナミは喉から血を流している。

 ヤマトタケルに首を絞められたときの傷か?

 だらだらと流れ出ているアヤナミの血は、僕が知っているものと違い真っ黒だ。

 竜神の血って黒いんだ?

 そんな事を考えている場合じゃない!

 僕は迫りくるアヤナミの攻撃を躱し続けた。

 

「ちょっと待てよ!」


 おかしい。

 僕の知っているアヤナミはこんなに弱くないはずだ。

 何度もクサナギ剣を繰り出してくるが、その太刀筋には素人の僕でも分かるほど鋭くない。

 なぜだ?

 アヤナミの喉から流れる血は止まる気配がない。

 このままでは失血死するんじゃないか?

 止血しないと……。

 僕は無意識のようにポケットをまさぐった。


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