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56 二つ目の試練③

『集中しろ!』


 ふっくんの厳しい声に励まされた僕は、何とか一撃目は避けることができた。

 しかし、大きく体勢を崩され次の攻撃に備えることができない。

 拙い!そう思った僕は体を折り曲げて腹を庇った。

 その時、地上から光りの矢が飛んできた。

 いや、矢じゃない、アヤナミだ!


「何をボケっとしてやがる!」


「うっ、ごめん」


 アヤナミはすんでのところでヤマトタケルと僕の間に割り込んで助けてくれた。


「ありがとう」


「おう、お前もよく持ちこたえた! 褒めて遣わす」


「ありがとう。で? 池はどうだった?」


「あれはダメだな。入ると溶ける」


「げっ! えげつないな」


『集中しろ! また来るぞ! クサナギを狙っている』


 僕はクサナギさんの人懐っこい笑顔を思い出し、なぜか急に胸がきゅっとなった。

 守らなくては……僕はそう思ってしまった。


「アヤナミ!試してほしいことがある。さっき僕が投げた黒い粒子をくっつけた枝を探して池に放り込んでみてくれ。溶けるならあいつを池に誘いこむ」


「吾をパシリにつかうとは。お前もなかなか大物だ。持ち堪えろ。すぐに戻る」


 これでヤマトタケルからクサナギ剣を引き離すことができた。

 後は僕がどこまでもつかだ。

 しかし魂が宿ったクサナギ剣の気配に気づいたヤマトタケルは、僕など無視してアヤナミを追おうとしている。

 僕は慌てて降下しようとする奴の前に飛び出した。

 左手にオオクニヌシ剣、右手にはスプレー糊だ!


「逃がすか! 卑怯者! お前をオオクニヌシの錆にしてやる!」


 かつて自らを切り裂いたオオクニヌシの名を聞いて、奴は反応を示した。

 そりゃ憎かろうさ!


「どうした? かかって来いよ!」


 僕は精一杯の挑発を試みた。


「小賢しい!」


 奴はこちらに向き直った。

 僕はスプレーをぶっ放しながらヤマトタケルの魂に突っ込んだ。

 とにかく固めてしまえば捕縛しやすいはずだ。

 奴を囲むメマトイの様な粒子が形を変えつつ、魂を中心に纏まり始めた。

 スプレー攻撃を数度繰り返すうちに、奴は変形しなくなった。


「溶けたぞ!誘い込め!」


 アヤナミの声が聞こえた。

 僕はもう一度だけ奴に切りかかり、そのまま地上を目指した。

 習うより慣れろとはこのことか。

 僕はなんの戸惑いも無く、頭から急降下した。

 チラッと振り向くと、案の定ヤマトタケルは追ってきている。


「アヤナミ!クサナギを隠せ!枝で絡めとってくれ」


 アヤナミは僕の作戦を正確に読み取って、手近にあった枝をぶち折って構えた。

 お~! そのフォーム! 往年のホームラン王のようだ!

 僕はアヤナミのすぐ脇をすり抜ける。

 僕の軌道に合わせていたヤマトタケルは、迷いもせずアヤナミ目掛けて突っ込んだ。


 バサッという音がしてアヤナミの持った枝とヤマトタケルがぶつかった。

 僕はすぐに引き返し、枝に絡まっているヤマトタケルめがけて噴射した。

 アヤナミは凝りているのか、慌てて風上に移動する。

 僕は容赦なく粘着力の高い霧を振りまきながら徐々に降下していった。


 池の上空まで来た時、黒くなった枝の隙間からにゅっと手が伸びるのが見えた。

 その手はアヤナミの首を掴み、そのまま池の中に落下しようとしている。

 僕はアヤナミの下に回り込んでその体を支えた。

 その勢いを止めきれず、僕の足先が池に触れた。

 ジュッという音と共に、熱いのか痺れたのかわからないような痛みが爪先に走る。

 え? もしかして濃硫酸の池? 僕の爪先って黒焦げになってる?


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