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54 二つ目の試練①

 すべての荷物を片づけた僕とアヤナミは、それぞれヤマトタケル剣とクサナギ剣を握って立った。


「いいか、魂が入った瞬間に高く飛べ。とにかく高くだ。いいか?」


「うん、分かった」


「もし俺と逸れたら一旦ゲートに戻るんだ。そこで落ち合おう」


「うん、あの大きい岩だね?」


「ああ、じゃあ行くぞ!」


 アヤナミの言葉を合図に、サーフェスからオオクニヌシの魂だけが抜けた。そしてオオクニヌシとクサナギはそれぞれの形代に収まり、それと同時に自分の魂だけになったサーフェスは僕の胸の石に入った。


「お~、魂って重たいんだな」


 緊張をほぐそうとしてくれているのか、アヤナミが明るく言った。

 その瞬間、ゴォォォォという音と共に、地面が揺れた。


「飛べ!」


 僕とアヤナミは思い切り地面を蹴った。

 とにかく上を向いて飛ぶことだけに専念していた僕は、アヤナミの声で止まった。


「見ろよ。危なかった」


 下を見ると地面に大きな亀裂が入っている。

 その亀裂はまるで生き物のように地中を掘り起こしながら蠢いていた。


「何あれ」


「この地にも邪気があるということだ。ここの邪気は地中に潜んでいる。それともこの時空に来た奴と呼応したのかな。奴は邪気の化身のようなものだから」


「なぜそうなってしまったのだろう。もともとは神の血を引く高貴な生まれだろ?」


「俺は知らん。後でサーフェスかクサナギにでも聞いてみろ」


 僕は胸の石を見た。

 何の反応も無い。

 回復に専念しているのだろうか。

 酷い怪我だった。

 体はサーフェスのものだから、オオクニヌシの魂が抜けてもダメージはサーフェスに残るんだな。


「この時空の調査をしてみよう。油断はするなよ?」


「分かった」


 僕たちは高度を保ったまま横に移動した。

 見渡す限り森のようだが、ところどころぽっかりと平原になっているところがある。

 集落かとも思ったが、建造物は見当たらない。


「人はいないのかな」


「人の形をしているかどうかは分からんが、邪気が存在するということは生命体はいるということだ。邪気が地中にいたということは地底人の時空かもしれない」


「生命体には必ず邪気が存在するってこと?」


「ああ、神でない限り必ずだ。生命の本能だと言えば分かり易いか?」


「なるほど。じゃあ僕にもアヤナミにもあるんだね」


「お前にはあるが俺にはない。お前は忘れているようだが、俺も神だぜ?」


「あっ! そうだった」


 アヤナミはじろっと僕を見てから視線を外した。


「そろそろ来る頃だ。奴は必ずクサナギ剣を狙ってくる。そうなるとターゲットは間違いなく俺だ。できるだけ抗うが、無理だと判断したらクサナギ剣は奴に渡すことになる。覚悟しておいてくれ」


 僕は小さく頷いた。


「あれは池だな。ちょっと降りてみよう」


 アヤナミと僕は急降下を始めた。

 ふと振り返ると遥か上空に黒いものが見える。

 やっぱり追ってきている! そう思った僕はアヤナミにそのことを告げた。


「ああ、お前はその辺に留まって奴を引き付けておけ。俺は先に降りて池の状況を確認するから。もし使えるならこの先が楽になる」


 僕の返事を聞かずにスピードを上げて急降下するアヤナミ。

 結局のところ僕に選択肢なんて無いんじゃないか!

 僕はホバリング状態で、オオクニヌシを両手で握った。

 オオクニヌシは今までとは違い、重量を増して鈍い輝きを纏っている。

 だんだんと大きくなる黒いものを凝視しながら、迎え撃つ覚悟を決めた。


『無駄な力は抜け。吾が導く』


 心の中に声が響いた。

 その声は今まで脳内で聞こえていた誰の声とも違って、随分低くてゆっくりした口調だった。


 (これがオオクニヌシの声)


 なんと言うかサーフェスの体を経由していた時とはまったく違う雰囲気だ。

 これが『さかしなのふえすみずやれのみこ』の本当の声ってことだよね?

 なんか……大人!


「わかりました」


 サーフェスには悪いがこの声で話されると敬語になってしまう。

 僕は権威に弱い一般的な日本人だと自覚した。

 それにしても彼が『ふっくん』……。

 すみません! 笑ってしまいました!


『すれ違いざまに突くぞ。停止しているより動いている方が威力は増す。迎え撃て』


 僕はオオクニヌシを両手で握り、目を凝らして上昇した。


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