49 裸の付き合い
子供のように飛び込んでいく神々。
僕はそっと体を清めてから静かに湯船に浸かった。
僕が一番大人だ。
それぞれが湯船の枠にもたれて満点の星を仰ぐ。
「美しいな」
サーフェスの声だ。
「ああ」
アヤナミが同意した。
「アヤナミは終わったら帰るのか?」
「そりゃ帰るさ。俺は帰ったら自分の池を持つんだ」
「自分で決められるの?」
僕は聞いた。
「主がいない池は無数にあるからな。でも竜神が入るのは龍脈にある池と決められているから、選択肢は多いようでそうでもない。あの近くならウサギ城の裏山にある池だが、あそこはどうも落ち着かんから他を当たるつもりだ」
「どうして落ち着かないの?」
「城のメイド達が水浴びに来るんだ。ウサギは泳ぎが達者だからな。バシャバシャとふざけ合って煩いんだ」
「えっ! ウサギって泳げるの?」
「えっ! そんなことも知らなかったのか?」
「あ……うん。ごめん」
「そうか、お前は狩りをしないもんな。仕方がないさ。まあ、俺はウサギは狩らないがな」
「そうなの?そう言えばアヤナミって主食は何?肉食なの?草食かな」
「そういう区分で言うならお前と同じ雑食だ。でも百歳を超えると霞を喰うだけだ」
「霞を喰う?それって仙人じゃないの?」
「仙人と呼ばれているのは竜神が里に行く時に使う人型だ」
「へぇ……わざわざ爺さんにならなくても良いんじゃないの?」
「俺たち竜神は美しいから人の女にまで集られると鬱陶しいだろ?それこそ掃いて捨てなくてはいけなくなってしまう。休まらない」
「もう何も言いません」
僕は顔の半分まで湯に浸かった。
サーフェスが穏やかな声で言った。
「なあ、はっくん」
え?はっくんって誰?
思い切り不思議そうな顔でサーフェスを見た。
サーフェスは笑いながら答えた。
「クサナギのことだよ。彼の名前は『さかしなのはやあきつやれのみこ』って言うんだ」
クサナギさんが笑いながら言った。
「長いだろ?だから私が『はっくん』で兄上は『ふっくん』と呼ばれていたんだ」
はっくんとふっくん……新人お笑い芸人のようだ。
そう思ったことは口に出さず、サーフェスの次の言葉を待った。
「ずっと気になってたよ。僕ははっくんの幸せをずっと願っていたんだけど、なかなか難しいことになっちゃっただろ?一緒に連れてくればよかったってずっと後悔してたんだ」
クサナギさんがぐっと何かを我慢したような顔をして口を開く。
「そうだね、あの時兄上について帰れば良かったのかもしれない。でも自分で選んだから」
「うん、だからだよ。無理やりにでも連れて行くべきだったのかなって思ってさ」
「でもそれでは浮神になってしまうって心配してくれたんだろ?」
「母上のように浮神になるのはね……母上は今どこにおられるのだろう」
「知る術もないな」
「でもね、お前が使命を全うすることを選んだとき、僕はとても誇らしかった」
「兄上……」
「これだけは忘れないでくれ。僕はお前を心から大切に思っている」
サーフェスの言葉を聞いたクサナギさんがざぶんと顔を洗った。
それからは誰も口を開かず、ただ静かに星を眺めた。




