41 魂の記憶
翌朝一番遅く起きたのは僕だった。
四人はたらふくお酒を飲んでいたのになぜ平気なのだろう……そんな事を考えながら食堂に行くと、美佐子さんがサーフェスと一緒に何かを作っていた。
「おはようございます。何してるの?」
「やあ、やっと起きたか。そろそろ彼が来るのじゃないかと思って準備しているんだよ」
「彼?」
「そう、クサナギだ。正確にはクサナギの魂が入っている彼だ」
「家庭教師の?」
「そうだよ」
「母さんも来るのかしら」
「彼女は今ハワイにいるよ。それとご両親は離婚が成立した」
「そうなんですか?まあ結果は同じだからどちらでもいいけど。母さんが納得する慰謝料を用意できたって事だね。だとしたら父さんがあの家に戻ってくるのかな」
「あの家は売るみたいだよ。山下さん夫妻はここに戻ってくる」
「それは朗報だ。ん?でも僕はどこに住むんだろう?ああ寮に入ればいいんだ」
「そういうこと」
「なるほど。それで?何を作っているの?」
ニコニコしながら美佐子さんが教えてくれた。
「うず煮ですよ」
「なんですか?それ」
「郷土料理です。坊ちゃんも一緒にあがーましぇ」
美佐子さんの出雲弁を久しぶりに聞いた。
「はい!よばれます」
僕もうろ覚えの出雲弁で返事をした。
「そういえばアヤナミは?」
「あいつは逆鱗が抜けたばかりだろ?ちょっと体力が落ちてるからって宍道湖に行った。帰りにふぐと海苔を買ってきてもらうことになってる」
「アヤナミって買い物できるのかな……」
ものすごく不安になったけれどもう行ったものは仕方がないと諦めて、一人だけの遅い朝食をとった。
「戻った。これで良かったのか?」
アヤナミがぶっきらぼうにテーブルに大きな箱を置いた。
サーフェスが美佐子さんと一緒に覗き込んで頷いている。
「よく揃ったなぁ。しかも凄い量だ」
「探しながら海岸を歩いていたら漁師がくれたんだ。だから加護を少し与えておいた」
「何をあげたの?」
「水難回避の護符だ」
ものすごい御利益がありそうだと思った。
サーフェスがアヤナミと僕に目配せをして食堂を出た。
「ちょっと話し合っておいた方が良いと思ってね」
「何?」
「奴のことだよ。恐らく奴はなりふり構わずクサナギを奪いに来る。もしもクサナギを奪われたら苦戦は必至だ。なにせ奴の愛刀だからな」
「でもただの形代って言ったじゃない」
「今まではね。さっき話しただろう?」
「あ、クサナギさん……」
「そうだ。あいつはきっと形代に戻るだろう。その上でクサナギがどう動くかだ」
「ヤマトタケルの味方になるってこと?」
「その可能性の方が高いさ。なんせ奴はクサナギを物凄く大事にしていたからね」
「そんな……」




