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40 神さま

 サーフェスがお祖父様と教授の膳に置かれた酒杯をとるように促し、手ずから酒を注いだ。

 お祖父様は恐縮して遠慮したが、サーフェスがお下がりであると言うと、喜んで酒杯を差し出した。

 山上教授は状況を理解しているかどうなのか、特に何も聞いてこない。

 説明するべきか迷っていると、アヤナミが僕にそっと言った。


「必要ない。どうせ後で記憶は消える」


「そうなの?」


「全てが片付いたらな」


 僕たちは奥出雲の郷土料理が並んだ膳を前に話が弾んだ。

 ひと通り食事が終わり、熱いお茶が出てきたとき、サーフェスが真面目な顔で口を開いた。


「首尾は?」


「整っております」


「まだ猶予はありそうだが、あまり時間は無い。お祖父様と山上教授には早急に二本の刀を鍛えていただく。一つはトオル君が持っているクサナギ、そしてもう一つはオオクニヌシ」


「それはまた……」


 二人の混乱などまったく無視してサーフェスが続ける。


「クサナギは欠けているだけだから研ぐだけで大丈夫。魂ももうすぐここに来るだろう。入魂の儀式は私がおこなう。オオクニヌシは新たな形代で頼む」


 そう言うとアヤナミが徐に作務衣を脱いだ。


「丁度良かった。もうすぐ抜ける。抜けるところを見るか?」


 僕たちはコクコクと何度も頷いた。


「痛くは無いと聞いているが、俺も初めてのことなのでな。少し不安だが、ここでよいか?もしかしたら畳を汚すかもしれないが」


「構いません」


 お祖父様が応えると、アヤナミはニコッと笑って立ち上がった。

 素足のまま庭に降りて竜の姿に戻り、天に向かって首を伸ばした。

 すると天空から一筋の稲妻がアヤナミに落ちた。

 アヤナミの体が金色に変わり、眼光が真っ赤になる。

 あたりに焦げたような匂いが漂い、ふと気づくとアヤナミは人の姿に戻っていた。

 ゆっくりと足元に転がった青鈍色のものを拾う。


「我が初めての逆鱗だ。よろしく頼む」


 アヤナミはそう言うとそれをお祖父様に手渡した。

 お祖父様はそれを三方で受けて、恭しく礼をした。


「命に代えましても」


「うむ」


 僕はいったい何を見たのだろう。

 山上教授を見るとなぜか泣いていた。

 サーフェスが何事も無かったように口を開く。


「どのくらいでできる?」


「三日いただければ」


「わかった。研いでおいてもらったあれは柄をつけてトオルに渡してやってくれ。新しいオオクニヌシができるまでの守り刀としたい」


「畏まりました」


「それまでに我らは用事を済ませて来るが、ここの守りは呼んであるから心配するな」


「ありがたきことでございます」


「神兵は人の目には映らぬし、寝食の心配も不要だ。それともう一つ、山上教授のところの研究員だった男が来たら気をつけろ。そいつがヤマトタケルだ」


 山上教授の喉がゴクッと鳴った。


「研究員ですか?」


「武田とかいったかな」


「ああ、武田君ですか。えっ?あの子がヤマトタケル?」


「正確に言うとヤマトタケルの残魂に体を乗っ取られた人間だ」


 山上教授は啞然としている。

 その人間らしいリアクションに僕はなぜかホッとした。


「追い返す必要は無いが、接触は避けろ。奴はここには入れない。この敷地から出なければ安全だ。いろいろな手を使っておびき出そうとするだろうが絶対に乗ってはいけない」


「「畏まりました」」


 難しい話はここまでとばかりに、四人は酒盛りを始めた。

 僕は手持無沙汰でなんとなく鞄の整理を始めた。


「あ……忘れてた」


 鞄のそこから取り出したのは、ウサギ姫に渡された破片のようなものだった。


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