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39 神は温泉好き

 今度の移動距離は短かったので瞬き程度の間に到着した。

 僕たちは周りに人がいないことを確認して空に飛んだ。


「見られるとかなり拙いんじゃない?」


 僕が言うとサーフェスが応えた。


「そうそう空なんか見上げる奴はいないよ。見たとしても一瞬だし」


「そんなもんかな」


「そんなもんだよ」


 その程度の会話をする時間で僕たちはお祖父様の家に到着した。

 アヤナミが周りの気配を伺い、小さくひとつ頷いた。

 サーフェスが石からでて、僕たちは作業場に向かった。


「お祖父様、ただいま帰りました」


 バタバタという足音がしてお手伝いさんの美佐子さんが出てきた。


「まあまあ! トオル坊ちゃん、お元気そうで安心しましたよ」


 坊ちゃんは止めてくれと言うより前にアヤナミとサーフェスが吹き出した。

 美佐子さんは何がおかしいのかとキョトンとした顔をしている。


「美佐子さん、ただいま帰りました。こちらは友人のオオクニ君とアヤナミ君です」


 二人はとても奇麗なお辞儀をして挨拶した。

 まるでどこぞの上流階級子息のように優雅な仕草だ。

 美佐子さんはポッと頬を赤らめている。

 美佐子さんは旅塵を落とせと言い、風呂に案内してくれた。

 お祖父様は作業場に籠って出てこないらしい。

 僕たちは三人で離れにある湯殿に向かった。

 三人でゆっくりと浸かっても余裕があるほど、離れの風呂は大きい。

 しかも源泉かけ流しときている。

 

「ああ……久しぶりだ。温泉が大人気でゲートがたくさん造られたんだぜ?」


「神様も温泉好きなの?」


「基本的に風呂という概念は無かったからブームになったんだと思うよ」


「ふぅ~ん。アヤナミもそうなの?」


「池の中で風呂に入る必要があるか?」


「あ……そうだよね」


 高校生らしく湯の掛け合いなどでバシャバシャ遊んでいたら、扉の外から夕飯が出来たと声がかかった。

 僕たちは準備されていた部屋着に着替えて食堂に向かう。


「これいいね」


 アヤナミは準備されていた着替えが気に入ったようだ。


「作務衣って言うんだよ」


「サムエ?へぇ。帰るときに土産にしよう」

 

 僕はぶっきらぼうなアヤナミが家族に土産を考えたことに少しだけ和んだ。

 食事は純和風で、僕の大好きな割子そばもある。

 僕は二人に食べ方を教えながら、美佐子さんの心づくしに舌鼓を打った。


「おう、帰ったか」


「お祖父様! ただいま帰りました。えっと、サーフェスは前に紹介しましたよね。こちらはアヤナミです」


 二人はきちんと正座をしてとても美しい日本式の礼をした。

 流石だ……見習いたい。

 お祖父様も丁寧なお辞儀を返している。

 美しい風景だ。


「お祖父様、山上教授は?」


「ああ、彼はとても頑張っているよ。今日もたくさん働いたからね、汗を流しに行っている。私はカラスの行水だが、彼はたっぷり浸かるのが好きみたいだね」


 そう言うとお祖父様は美佐子さんに言って封が切られていない酒を持ってこさせた。

 高坏が二つ用意され、三方も運ばれてきた。

 お祖父様はその高坏に酒をなみなみと注ぎ、三方にのせてサーフェスとアヤナミの前に置いた。

 凄い……お祖父様が二度礼をして四拍手してから、もう一度礼した。

 これは出雲の作法だ。

 二人はそれぞれ小さく頷いて高坏を持ち上げ一気に煽った。


「ありがたいことです」


 お祖父様がそう言っている時、ふすまが開いて山上教授が入ってきた。


「やあ、無事に帰ってきたんだね。お?新しいお仲間かい?」


「ええ、なんとか戻ってきました。こちらはアヤナミ君です」


「始めまして、山上という者です。大学で古代史の教授をしていますが、今は縁があってこちらで刀鍛冶を手伝わせてもらっています」


「そうですか、私はアヤナミと申します。オオクニ君と八幡君と行動を共にすることになりました。どうぞよろしくお願いいたします」


「気持ちの良い青年だ。それに姿も美しい。竜のように鋭い眼光も好ましいですな」


「竜のようにですか。それはそれは」


 アヤナミが楽しそうに笑った。


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