35 神刀
「あいつの体って微粒子だろ?今回減らせた量って復活するの?」
「あいつの体は悪意でできているから、人間界に入ればあっという間に戻るよ」
「悪意の塊ってこと?」
「そうだよ。人間が持つ本能のようなものさ。僕たちには無いはずだったんだけど、あいつが僕の住んでいた空間に来てからそれに触発された生命体が増殖したんだ。あいつが神の世界に悪意を持ち込んだんだ」
「それを切り裂けるのが神刀オオクニヌシか。でもそれって壊されちゃったんだろ?」
「壊されたのは依り代で、奴の手に渡った時には抜けていたから唯の古い刀だよ。抜けた魂が僕の中に入ってきたんだ」
「???????」
「だから今僕が保管しているオオクニヌシの魂を戻す依り代が必要なんだ。それを君のお祖父様が鍛えてくれている最中だよ」
「ああ、なるほど。ではお祖父様はオオクニヌシを鍛えてって、えええええっ!お祖父様ってどんだけ?」
「凄い人だよ?今それを作れるのは彼しかいない。君の家系はオオクニヌシとクサナギを産み出した刀匠の血筋だ」
「では僕も?」
「そう。しかも君はヤマトタケルが動くきっかけとなっている。君の母上はヤマタ一族の血筋だからね。言うなれば最強のミックスだ。この千六百年で初めて交わった血だよ」
「意味が分からん……」
「うん、根暗で平凡な唯の歴史オタク高校生だもんねぇ」
「サーフェスって僕のことそう思ってたんだ。まあ否定はしないけど」
僕は少しだけ拗ねてしまった。
サーフェスが僕の肩をバシバシ叩いて笑った。
「でも史上最強だから」
アヤナミが可哀想な子供を見るような目で僕を見て、焼いていた肉を差し出した。
「喰え。元気出せ」
「うん、ありがとう。これって何の肉なの?」
「聞かない方が良い。どうしても知りたいなら言うが?」
「いや、止めておくよ」
僕は黙って肉を頬張った。
それから僕たちはこの先の行動を話し合ってから毛布にくるまって眠った。
あくる朝、目覚めた僕は二人がいないことに気づいて焦った。
深い森の中で一人きりになると身動きが取れなくなると初めて知った。
ガサッという音がして背の高い草が揺れた。
僕は咄嗟に身構える。
「起きたか?」
アヤナミだった。
「面白いものを見つけたからちょっと来てみろよ」
僕は黙ってうなずいて立ち上がった。
アヤナミの後を追った僕は、何やら黒い塊を見た。
よく見るともぞもぞと動いている! かなり気持ち悪い!
「な、なんだ? あれ」
その塊の横にしゃがんでいたサーフェスがひらひらと僕を手招きした。




