34 血脈
僕たちは城を出てアヤナミの案内で森に入った。
「この森はずっと昔から深くてね、鎮守の森と呼ばれていたんだよ。でもいつの間にか周りの国がじわじわと開発して小さな森になった。あの石の周りだけは近寄れないように結界が張ってあるけど、いつまで持つやらってところだね」
「鎮守の森?それって神社の周りにある森のことでしょ?」
サーフェスが頷きながら引き取った。
「そうだ。以前に淡路島にゲートがあるって話をしたよね?覚えている?」
「うん、確か沼島だっけ?」
「そうだよ。淡路島には神代という村があったんだ。神代と書いてくましろって読むんだけど、鎮守の森のことなんだよ」
「そうなの?」
「そうだ。地名としてはこうじろと呼ぶ地域もあるけど、漢字はすべて同じ神代と書く。これは全てその昔に使っていたゲートの事だ」
「たくさんあるの?」
「主には西日本だけど、富山と東京にもあるよ。東京っていっても昔は違ってたけどね。観光の移動に便利な場所に作ってたんだ。今の県名で言うと岡山と島根と山口と長崎になるのかな」
「へぇ~島根にもあるの。知らなかったよ」
「そしてここにもあるってことは?」
「ここにもあるってことは……ここにも来ていたってこと?」
「そういうこと」
「君たちは異空間を移動していたってことだね?」
「そうだね。君たちは三次元で暮らしていると考えているけれど、本当は四次元空間なんだ。僕たちはそのまま四次元で暮らしているだけで何も変わってないんだよ。人間が四次元であることを否定しただけ。だから使えなくなってるんだけどね」
「……良く分からないけど、まあ僕は体感しているんだろうけど理解は追いついてない」
アヤナミがフッと笑った。
「何次元とか難しく考える必要は無いけどね。ところで現状を把握するために情報の共有をしてくれないか?」
「ああ、そうだね。僕は人間界では神と呼ばれる存在でアヤナミも同じ立ち位置だ。トオルは普通に人間。でもトオルにはずっと受け継がれている魂が宿っていて、それが僕に入っている二つ目の魂と共鳴している」
「お前って二つ持ちなの?そりゃ大変だねぇ」
「うん、だから石に入って休んでることが多いんだけど、ここはやっぱり楽だね。人間界ではとてもきつかった。だから石を依り代にして二つ目の魂を移してトオルに預けてたんだけど、それがあいつを呼んでしまうんだ」
「あいつってヤマトタケルとかいう霧の塊?」
「そう、あいつに妻を殺された男の魂がトオルの中にある。だからトオルはヤマトタケルを追う宿命を背負っているんだ。そしてあいつの魂を分断したのが僕の中に入ってきた二つ目の魂だ。それを消すことでヤマトタケルは完全体に戻れるんだ。だから奴は僕を追っている。そして僕の魂を消すことができるのが君の持つ逆鱗だ。だから君もあいつに追われる宿命だね」
「ややこしいな……。要するにヤマトタケルはお前を消すために俺の逆鱗を欲していて、そのヤマトタケルを完全に消すためにトオルは奴を追っているってことだよね?そんな俺たちがパーティを組んでいる?」
「そう。僕はいつまでも奴に追われるわけにはいかないし、僕の世界で混沌を発生させている奴らを一掃するためには二つ目の魂に覚醒してもらうしかないんだ。そういう意味では僕も奴を追っている」
「お前って追っている奴から追われてるってこと?なんだよそれ」
「君も同じだよ。君だって奴が存在する限り逆鱗を狙い続けられる。それを阻止するためには奴を消すしかないだろ?君も追われながら追っていることになるぜ?」
「なるほどね。まあそう言うならトオルも同じだな。君の中にいる魂を消さないと、あいつもずっと追われることになるからお前を抹殺したいんじゃない?」
ずっと二人の会話を聞いていた僕は溜息を吐いた。
「ややこしいな……」
「「ああ……」」
僕たちの溜息がシンクロした。
サーフェスが気を取り直すように言う。
「そう言えばさっきとトオルの作戦は見事だった。あれで奴の体は相当なダメージを受けているはずだ。おそらく見た目も小さくなっているはずだよ。もしアヤナミの刀が神刀だったら魂も半分にできたのになぁ」
「神刀かどうかは知らないが、これはずっと昔この地を訪れたお前の仲間から譲られたんだ。何かのお詫びとか言ってたらしいけれど、俺の生まれる前の話しだから詳しくは知らない」
「へぇ~そうなんだ。何をやらかしたんだろ?竜神を怒らせるなんて相当なことだな。う~ん……たぶん女関係だろう」
僕は何も聞かなかったことにして話題を変えた。




