28 垣間見たもの
僕の質問にはさほど興味が無かったのか、最後の汁を飲み干してサーフェスは言った。
「君は今から魂が持っている記憶を体感する一夜を過ごすはずだ。その中に答えはあるよ。さあ、食べたら横になろうぜ?僕は石に戻るから君一人になるけど大丈夫かな?」
「だ……大丈夫さ」
僕の返事にニコッと笑ったサーフェスの体が霧のように消えた。
胸の石に温もりが戻る。
僕はごみを片づけてからふかふかの毛布に包まった。
目を閉じるがなかなか寝付けない。
当然だろう?今日一日だけでも物凄い経験をしたんだから。
しかし体は正直で、もう指一本動かすのも辛い位に疲れ果て、瞼が重たくなった。
『どうか……どうかご容赦下さい』
『良いからここへ参れ。なに黙っておれば分かりはせぬわ。それにお前は腹に子を宿しておるのだろう?好都合ではないか』
『御無体な事を申されますな!主人はすぐに戻ります!お手を御放し下さいませ』
なんだ?僕は何を見せられているんだ?
この若い男は何者だ?
少しお腹が大きくなっている女性を組み敷いて、乱暴しようとしている。
「逃げろ!逃げるんだ!」
叫んでも声は届かない。
体格の良い男は、他愛も無くその女性の着物を剝ぎとって、ニマニマと笑いながらその体を押し開いていった。
「やめろ!酷いことをするな!」
僕は胸をかきむしられるような焦燥感に駆られる。
遂に女性は気を失い、男は悠々とその体を堪能していた。
僕は悔しくて涙を流している。
それにしてもこれは夢か?
僕の視線は、その光景を少し下から見ているようなアングルで、身動きが取れず金縛りにあっているような気分だ。
「おのれ……許さん!」
僕は見たこともないその女性が哀れで、何もできな自分が惨めで。
その酷すぎる光景を胸に刻み込みように、視線を逸らさない事しかできなかった。
「お前は……ヤマトタケル!」
なぜか僕はその強姦魔を知っていた。
神の一族であるはずのその男の所業に、はらわたが煮えくり返る。
その時、カタンという音がして帰宅を告げる声が聞こえた。
『チッ!抵抗などせねばお前も良い思いが出来たものを。バカな女だ』
ヤマトタケルは緩めていた下帯を直しもせず、腰ひもだけを結いなおして座敷から庭に飛び降りて走り出した。
廊下を歩く音がだんだん大きくなり、ふすまが開いた。
ガタっという何かを落とすような音がして、男性が慌てて駆け寄ってきた。
『ミヤ!ミヤズヒメ!ああ……なんてことを……可哀想に』
その男は気を失っている女性を抱きしめて泣いている。
「まだ近くにいるかもしれない!追え!」
僕は叫ぶが相変わらずこの声は届かない。
その男が流す涙が女性の頬を濡らし、女性がうっすらと目を開けた。
『きゃぁぁぁぁぁ』
女性が腕の中で暴れるのを必死で抱きしめている。
『ミヤ!大丈夫だ。私だよ。大丈夫だから……』
女性が自分を抱きしめている男の顔を恐る恐る見た。
『旦那様……わたし……』
そう言うと女性はお腹を押さえて苦悶の表情を浮かべた。
ふと見るとまくれ上がった着物の裾が血で汚れている。
女性はその現実を見て、短い悲鳴を上げると再び気を失った。
「酷すぎる……」
僕は拳を握りしめていた。




