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25 池の底

 帰っていくウサギたちを見送り、僕は池の周りを歩いてみた。

 どれが竜神の言っていた毒草なのかわからないが、彼の言っていたことは真実だろう。

 それにあの子供の竜神はウサギ姫を助けようとしていた。

 そうなると、今までの生贄となったウサギ姫たちも生きている可能性が出てくる。

 では彼女たちはどこに行った?


 午後の日差しが竜神池の水面をキラキラと輝かせる。

 風に弄ばれるように揺れるその水面は、まるで光り輝く鱗のようだ。

 

「知恵…」


 竜神は僕に何を望んでいるのだろう。

 そんな事を思いながらふと見上げると、ゆらゆらと揺れる葉影が空の青さに浮かび上がって、まるで緻密なレース模様のように見えた。


「困ったら原点に帰るってお祖父様が言ってたな。原点?」


 僕は声に出して自問した。


「そもそもなぜ生贄なんて習慣が生まれたか…」


 そう言えばウサギ姫が国を守るためと言っていたなと思い出した僕は、あっさり竜神に聞いてみようと思いついた。

 池の畔までゆっくりと進み、水面に向って話しかける。


「すみません!御足労をおかけしますが少しお話しできませんか?」


 池は何の変化も無く、もちろん竜神も応えてはくれなかった。

 まあ当たり前だな。


「はぁぁぁぁ…知恵ねぇ…それにしても神話通り酒を勧めてみたがまさか子供だったとはね…急性アルコール中毒とかなってないだろうな」


 子供に酒って!マジで拙かった。

 ふと水面が揺れ、小さな竜が顔を出し此方の様子を伺っている。


「あっ!君!大丈夫だった?頭とか痛くない?ホントごめんね」


 小さな竜神は何も言わずこちらをじっと見ている。


「君…子供にお酒なって…言い訳になるけど僕って竜を見るのが初めてで…君が子供って知らなかったって言うか。ほら君たちって僕らより随分大きいだろ?だから…」


 僕はしどろもどろで苦しい言い訳をし続けた。

 すると頭の中に声が響いてきた。


『兄さまなら大丈夫。あなたこそ大丈夫?』


「えっ!君はさっきの竜ではないの?」


『うん、違うよ。私は二十四番目の妹』


「こ…子沢山なんだね…」


『そうなの?私たちは生まれて百年経ったら他の池に移り住んでその地の神になることが決まっていて、兄さんは今年隣の国の池に行くの』


「じゃあさっきの子供って…百歳?」


「そうね。毎年一人しか子供は生まれないから今年が兄さんの順番ってだけよ。それで今までのウサギ達のことだけど…」


「ああ、生贄にされてきたんだよね?でも竜神はそれを望んだわけではなくて犬死だったんだよね?」


「生きてるよ?独立した兄さんや姉さんが連れて行ったの。それを彼女たちが望んだから」


「そうなの?」


「そうよ、自分を殺そうとした国には戻りたくないって。だから一緒に行って楽しく暮らしているのよ」


「そうなのか…じゃあ今年のウサギ姫は君の兄さんと一緒に行くことになってたのかぁ」


「それを決めるのは本人だけど、望めばそうなっていたと思うわ。その話をする前に兄さんったらお酒に目がくらんじゃって…」


「それは僕が悪い。申し訳なかった」


「父さんがあなたを呼んで来いって」


「竜神様が?」


「さっき呼んだでしょ?」


「呼んだけど…僕は池の中に入れないから来てくれると助かるんだけど」


「それは無理。でも大丈夫よ。一緒に行きましょう?」


 そう言うとその少女?の竜は僕に短い手を伸ばした。

 僕はなぜかそれを素直に受け入れてしまう。

 大きな泡のようなものが竜の鼻から吹き出され、僕を包み込んだ。

 泡の中に閉じ込められた僕は、そのまま池の底へと沈んでいった。

 だんだん暗くなる景色を泡の中から眺めていたら、また徐々に明るくなっていく。


「割るね」


 少女が鋭い爪で泡を割り、僕は地面に放り出された。

 息が!と思ったが空気はあるようだ。

 少女が跪いて頭を下げている先を見ると、巨大竜が優雅な姿で草むらに座っていた。

 その横でまだ真っ赤な顔をしてる小さな竜が、羊やヤギやネズミや猫や犬に世話を焼かれている。

 みんなウサギ人間と同じで首から下は僕と同じ人間の体だった。


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