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15 暗転ふたたび 

 サーフェスはうれしそうな顔で答えてくれた。 


「そうだよ、オオクニヌシはヤマトタケルの魂を半分に切り裂いたときに欠けたんだ。それを拾って祀っていたのが君の家系だ。君の家系はクサナギとオオクニヌシを鍛えた刀鍛冶を祖としてる。そしてオオクニヌシでヤマトタケルに切りかかったのが、刀鍛冶の妻であるミヤズヒメだ」


「いやいやちょっと待ってよ。ミヤズヒメってヤマトタケルの最後の妻じゃなかったっけ?」


「古代文献はそう記載しているね。ヒノモトの頂点たる血筋のスキャンダルは隠したかったのだろう」


「だめだ…頭がパニックだ。情報量が多すぎる」


「ははは! そりゃそうだろう。日本史がひっくり返るからね。でもこれが真実なんだよ。君は僕の言葉を疑っていないだろう?それはね、君の血の中に記憶があるからだ。ずっと受け継がれてきた細胞に刻まれた記憶だ。だから本能的に受け入れているんだね」


 僕は顔を顰めて頭を抱えた。

 お祖父様と山上教授は、そんな僕たちなどお構いなしに昔話に花を咲かせている。

 みんな変だよ?緊張感というものをどこかに捨ててきたのだろうか。

 サーフェスが咳ばらいを一つして口を開いた。


「まあそういうことで、よろしく頼むよ。魂の輪廻はさすがの僕たちも関与できないからね、当時の関係者がこの時代に揃ったということは、決着をつけろということだろうと思うんだ。この機を逃すとまた二千年位は待たなくちゃいけないからね」


 お祖父様の顔が引き締まった。

 僕の知らなかった顔だ。

 なんと言うか……古武士?


「それでは私は早速研ぎに入りましょう。教授は神火を絶やさぬようにお願いします。結界は十重二十重に張りますが、鳥居前の守りはヤマタの一族を呼びましょう」


 山上教授はコクコクと頷いた。


「うん、頼むよ。トオルを鍛える必要があるから僕たちはちょっと山に籠ろうかな」


 僕はギクッとしてサーフェスを見た。


「僕が? 鍛えるって…」


「そうだよ?君はアツタノミコとヤマタ一族の両方の血を受け継いだ唯一の人だからね。君にしかオオクニヌシは扱えないんだ」


「………終わったらゆっくり聞くよ。要するに僕も戦うんだね?ヤマトタケルと」


「そうだね。でも『僕も』ではなく『僕が』だ。それに…ん?この気配は…思っていたより早いな…伏せろ!来るぞ!」


 サーフェスの声にお祖父様と教授は畳の上にへばりついた。

 咄嗟に動けなかった僕に手を伸ばし、お祖父様が引き倒すようにして僕を抱え込んだ。

 家中の建具がガタガタと小刻みに揺れ始めると、ふすまが強風で吹き飛び僕たちの頭の上を掠めるようにして庭に投げ出された。


「まだだ! 動くなよ」


 サーフェスの声も緊張している。

 顔だけを少し動かして辺りの様子を伺うと、ふすまが無くなった広縁の外に濃い鼠色の霧が立ち込めていた。


「実体はないな。斥候だな? この程度の脅しで怯むとでも思ったか? 侮られたものだ」


 サーフェスが誰にともなく言っている。

 僕は十分に怯んだが、それを口にできるような雰囲気ではなかった。


「トオル! 時間が無い。戦い方は実戦で覚えてくれ! 行くぞ!」


 そして僕の周りは再び暗転した。


「サーフェス?」


 闇の中で友の名を呼んだ。


「ここだ」


 声が聞こえた方を向くが何も見えない。


「まずはこの暗闇を切り裂かねばならない。君の手に握られている剣を振り回せ」


「剣?」


「握ってるだろう?」


「え?あ……ああ、これ?これって剣なの?」


「そうだよ。神刀クサナギだ」


「クサナギ!」


「唯の形代だから気にするな。さあ! 振り回せ!」


 僕は戸惑いながらもぶんぶんと右手に握っているものを振り回した。

 振った軌跡が光りの線になっていく。

 ただ振り回しても労力の無駄だと気づいた僕は、少しずつずらしながら同じ方向を何度も切り裂いた。


「おお! もうすぐ抜けられるぞ」


 線でなく面にすることで体が入れそうな隙間を作ることに成功した僕は、その光りの方へ一歩踏み出した。


「うわっ!」


 落ちる!そう思った瞬間何かが僕の体を包みふわっとした浮遊感を感じた。


「ゆっくり降りるぞ。降りたい場所を凝視することで方向は変えられる。ちょっとやってみるか? 上を向いてみろよ」


 僕はゆっくりと上を見た。

 すると体が浮き上がった。

 右を見ると右に、下を見ると下に体が進んでいる。


「凄いな……」


「そろそろ降りよう」


 サーフェスの声が聞こえた。


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