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12 難解な会話

 初めての二人の旅は思っていたより賑やかだった。

 サーフェスは子供のように車窓に流れる景色にはしゃぎ、車内販売が来る度に何か買おうとする。

 京都で乗り換えて在来線ホームに向かうまでの間もずっときょろきょろしているから、僕は遂に吹き出してしまった。


「なあサーフェス、まるで初めて電車に乗った子供のようだぜ?」


「ああ、初めて乗ったんだ。凄いよね…新幹線が早いって体感は無かったけれど、こうやって在来線に乗るとめちゃくちゃのんびりしてるもん。やっぱり新幹線は早いんだな」


「感想まで子供っぽい」


「何とでも言ってくれ。楽しいものは楽しいんだ。そもそも歩く以外の移動手段を使うのは初めてだからね」


「バスとか車も乗らないの?」


 驚いた僕の顔を見てサーフェスは肩を竦めた。


「山上教授には昨日のうちに連絡しているから、すぐにヤマト大学に行こう」


「お土産持ってくればよかった」


「大丈夫だ。車内販売で売っていた沿線名物は全て持っている」


 僕はもう何も言わなかった。

 大学に入り事務室に行って山上教授とのアポイントを告げる。

 ほんの数分で山上教授の助手という方が迎えに来てくれたので、その後をついてキャンパスを歩いた。


「随分遠いのですね」


「ええ、教授の趣味ですよ。教授の研究棟の近くは空気が変わるような気がしますからお楽しみに」


 山上研究棟という案内板を見ながら石畳を進むと、いきなり古代樹のような大きな杉の木が目に飛び込んだ。

 僕たちは暫し立ち止まり、神々しいほどの存在感を放つその杉を見上げた。


「わかるよ。僕も初めてみたときはそうだった。この杉の木には名前があるんだよ。キマタノカミというんだ。まあ山上教授が勝手につけたんだけどね」


 サーフェスがゆっくりと杉の木に近づいた。

 風もないのに枝が揺れカサコソと耳心地の良い音がする。


「ここに居たのか。なぜ帰ってこなかったんだ?」


 サーフェスが杉の木に問いかけた。

 また枝が揺れる。


「そうか…まあそうだよな。元気なら良かったよ」


「サーフェス?」


「ん?ああ、早く行こう」


「う…うん」


 また杉の木の枝が揺れた。

 山上教授の研究棟はいたってシンプルな作りだった。

 飾り気の無さが心地よい。


「教授、いらっしゃいましたよ」


「ああ、ご苦労さん。さあ入ってくれ」


 山上教授は恰幅の良い体を揺らしながら立ち上がり、僕たちを迎え入れてくれた。

 サーフェスが進み出て握手を交わし、僕を紹介してくれた。


「そうか、それじゃあ来年は有望な若者が入学するんだね」


「は…はい。合格すればですが」


「合格しなさい」


「はい、頑張ります」


「まあ掛けたまえ。君、お茶をお願いできるかね?」


 はいと返事をして、ここまで案内してくれた助手が部屋を出て行った。


「さあ、挨拶に時間を割くのは愚の骨頂だ。サーフェス・オオクニ君だったね?君の説はとても興味深かった。確かにそれに近い史実も見つかっているが確証が無いんだ。なにせ神話の時代のことだからね。そこでぜひ直接話をしたかったんだよ」


「お時間をいただいて感謝します。僕の知り得る事なら何でもお話ししますが、後は教授がどこまで僕を信じてくれるかですが」


「信じるかぁ…。僕も日本古代史の研究者の端くれだからね。想像は好きだが確証を得ないと信じることは難しいかもね」


「それを聞いて安心しました」


 二人はどんどん話を進めていく。

 僕は二人の会話を聞き逃すまいと集中したが、半分もわからなかった。


「ほほほ!なるほどね~異空間から来たのか。その説はとても興味深いね。その説をとるなら世界中の不思議のほとんどが解決できそうだ。その異空間というのにも人種があるの?」


「無いですよ」


「では世界中の神というのは同一人種?」


「教授、そもそもが違います。人種というのは人に使う単語ですよね?僕たちは実体がありませんからね。なんと言うか日本的に言うと魂のような存在です。こちらの生命体には見えないので、いろいろ不都合があるでしょう?だから近い形になっているだけです」


「なるほど!魂かあ~…納得できるけれど証明は難しいな」


「証明の必要は無いですよ。あなたが知りたいというから真実を伝えただけです。信じるか信じないかはお任せします」


「信じたいなぁ…でもそれを信じちゃうと私の今までの研究がひっくり返っちゃう」


「いいえ?教授の研究は僕の知る限り一番真実に近いです。だからこそお手紙を差し上げたのですよ。教授の説は西暦で言うと500年あたりかな?それ以降については文句なしです。それ以前の時代については材料が無いでしょう?その頃の支配者は忽然と姿を消したり、とんでもなく長生きしたりしますからね」


「そうなんだよ!そこなんだ!」


 僕は遂に二人の会話の解読を諦めた。

 手持無沙汰で棚に並んでいる収納物を眺めていた。

 

「ん?アレは何?」


 ちょうど会話にひと段落ついていた二人が僕の声に反応した。


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