11 倭(やまと)へ
「ここに居るのは構いませんよ。母がいなくても別に草薙さんがそうしたいなら別館にでも住んでください。でも僕も夏休みだから本家に行きますよ?山下さん夫婦しかいなくなりますよ?」
「そうなの?僕もその本家っていうところに着いて行こうかな~」
「それはダメです」
草薙さんに会わないようにすると言ったサーフェスの顔を思い出した。
「あれ?嫌われちゃったなぁ」
「ははは…嫌ってはないですよ。今回は友人と行くのでダメなんです。それに途中もいろいろ行くところがあるし」
「そうかぁ、じゃあ諦めよう。お母さんのことはこっちで何とかしようか?」
「お願いします」
「お父さんのことはどうするの?」
「どうもしません。二人で決めることでしょう?僕は関わりたくありません」
「うん、正解だ。じゃあそれもこっちで何とかするよ。山下さんがいるなら悪いようにはならないさ」
草薙さんは手に持っていた石を僕に手渡しながら言った。
「トオル君、これは肌身離さず持っていなさい。必ずだ」
「あっ…はい、わかりました」
気おされたように僕は頷いた。
草薙さんの手の温もりだろうか、石が少し暖かくなっている。
なぜ草薙さんがサーフェスと同じことを言ったのか気になったが、なぜか深く考えることもせず、僕は机の引き出しから小さな巾着を出して石を入れた。
ごそごそと探すと去年買ったチェーンネックレスが出てきたので、石を入れた巾着を通して首からかけた。
持っている鞄の中で一番大きなものを出して、明日からの準備を整えてからベッドに入った。
翌朝は山下さんが駅まで車で送ってくれた。
僕は送らなくていいと言ったのだが、サーフェスに会っておきたいと言われると強く断ることもできなかった。
助手席には明美さんも乗っている。
二人は僕を降ろした後で学校に向かうと言っていた。
朝食をとっていると草薙さんが食堂にやってきた。
相変わらずひょうひょうとした態度で、焼き魚の朝食に目を輝かせ、出掛ける僕を見送ってくれた。
「気をつけろよ。無理はするな。何かあったらすぐに私を呼べよ」
いつものように草薙さんと一緒に朝食をとった。
満面の笑みで草薙さんに見送られながら、山下さん夫妻に車で駅まで送ってもらう。
山下さん夫妻はこのまま学校に行って、僕が休む説明をしてくれることになっていた。
僕よりはるかに身軽な荷物で立っていたサーフェスと合流して、奈良までの切符を購入して新幹線に乗り込んだ。
新幹線に乗るのは初めてだというサーフェスは、面白がって一号車から十六号車まで歩くと言って席を立った。
僕は席で待っていることにして、鞄の中から山上教授の本を取り出した。
「会えるんだ…」
僕の心は早くも山上教授のもとに飛んでいた。




