第一話・2/4パート
[王国・第一宮殿・中央御所・母屋(建物のうち、主に住居となる部分)]
幅が広く、天井の高い部屋。太い木製の柱が部屋の四隅で天井を支え、部屋の中央には大きな御帳(寝るための場所。直方体で、高さがあり、天井部分に障子が張られている、テントのようなもの)が置かれている。御帳の中の床の上には黒い漆で塗られた木製の台が置かれ、その上には畳が重ねられている。さらにその上に幾重にも重ねられた布の上には一人の男が仰向けに横になっており、腹の部分に薄い衣を被せられている。男はやせ細った老人で目を瞑っており、敷布の上に白く血管の浮き出た左手を衣の下から少し出している。
その左手の上に光に当てられた自らの白い右手を重ね、御帳の中で横になる男を見つめる女が一人。女は若く、長いであろう黒色の髪の毛を頭の後ろで束ねている。胴と手足には甲冑を纏い、腰に巻いた帯には鞘を結んで繋いでおり、鞘には短刀が収められている。女は御帳の四方に垂れている帳(病院の病室にある、仕切り用のカーテンのように、寝る場所を隠す役割をする布)の内側に立ち、横たわる男の顔を伺っている。
[くもった弱い衝撃波の音・遠くから響く微かな衝突音]
窓際の机の上の竹の水入れに注がれた水がわずかな揺れの水紋を作る。
女は横たわる男を見下ろし、重ねた手をわずかに握りこんでいる。
衝突の音は部屋を通り過ぎ、帳の隙間から男の手元に差す陽が、静寂を取り戻した部屋の床に延びる。
[部屋の外から近づく、木の廊下を早足で歩く複数の足音・甲冑と服が擦れる音]
[壁越しに障子が開く音・複数人のひそひそとした話し声]
女は音と話し声に気付くと、帳を少し上げ、部屋の入口である障子を見る。
[障子の外で床に座り込む音]
女「入れ」
[障子が開く音]
障子が開かれると、部屋の外の小部屋の床には甲冑の着た女の兵士達と着物を着た女の侍従(王の身の回りの雑用などを行う者)が頭を下げている。
侍従「失礼します。お客様がお見えになりました」
女「分かった。少し待て」
女は帳をおろし、横たわる男に顔を近づける。
女「、、、行ってまいります」
[帳を上げる音・足音]
女は部屋の入口の障子まで歩くと、小部屋の中に入り、頭を下げている兵士達の前で止まる。
[障子が閉まる音・兵士達が立ち上がる音]
小部屋の中で立ち上がった兵士達は女を起点に輪状に並ぶ。
女「状況は?」
兵士1「前線の丘付近で爆発。数は一つ。宮内に被害無し。こちらのやぐら(監視所の役割をする高い建物)で土煙を確認しました」
女「攻撃の可能性は?」
兵士2「今前線からの早馬が向かっています。それまでは陛下を地下の結界に」
女「分かった。人は足りるか?」
兵士3「はい、ご一緒されますか?」
女「いや、馬を回せ。マナを呼ぶ」
兵士4「了解しました。馬は外で待たせてあります」
女「ありがとう、では陛下を頼む」
侍従1「将軍さま達には何と?」
女「、、、案ずるな、私が伝えておく。お前たちは地下の扉を開けてきなさい」
侍従2「承知しました」
女「では他の者は行くぞ。ついてこい」
兵士達「はい」
[障子が開かれる音]
兵士たちが障子を開けて部屋の中に入り、御帳に近付いていく。
兵士1「陛下、失礼いたします」
[中央御所・渡り廊下(建物と建物を繋ぐ廊下)]
[木の板が微かにきしむ音・複数の足音]
小部屋から廊下に出た女と周りの兵士たちが木板の床を歩く。木組みの母屋から中庭へと続く木板の床の廊下には屋根が付いている。屋根から床に漏れる陽が差し込み、廊下を早足で歩く女と周りの兵士たちの足元を照らす。
兵士5「あの土煙は自然のものとは考えにくい。ハジべたちに水路結界準備の連絡を」
兵士4「いま向かわせてる。すぐに張られるハズだ。やつらを宮内に置いておいて正解だった」
兵士2「しかしこれは本当に攻撃なのか。この時期の攻撃は6号からの情報からでは考えにくい」
兵士4「やつらにだって間違いはある。こちらの情報の不備の可能性もあるが、今は確認が先だ」
兵士5「朝廷への報告だが、どれぐらい延ばせそうだ?」
兵士2「こちらの烏がすでに動いている。なにより奴らは国外だ。心配するな」
女は前を早足に歩く兵士たちの後ろを思いつめた顔で歩く。
ふと、女は何かを思い出したかのように上空を見上げる。女が見上げた空の遥か上には、先程の赤黒い円が薄く浮いている。
女「・・・ッ」
女は足を止め、空に浮かぶ円を見つめる。それに気づいた兵士たちが女に振り返る。
兵士2「は、、、どうされましたか?」
兵士の一人が女の視線に気付き、その先を向く。
兵士2「ハッ・・・なんだ」
兵士4「アレは・・・」
兵士5「円・・・?」
女は円を見つめると、視線を兵士たちに戻す。
女「急ぐぞ」
[前線付近・南の山・山腹地帯]
強い風が吹く山腹の小さな草原。周りと比べて緩やかな傾斜になっているその草原は、ゴツゴツとした岩が辺りに生え、すぐ近くの直角に近い岩肌には木組みの小屋が山のふもとに広がる森を見渡すように建てられている。小屋には窓のようなものは無く、森の方角に向けて開けられた小さな穴を除いてその壁は木板で敷き詰められている。
[小屋内・響き合う話し声・竹簡(竹を加工した縦に長い札状のもの。文字や文章を書き写すのに使われる)同士がぶつかる音]
小屋の中は暗く、小屋内の壁面を外の壁の穴から差し込んだ光が照らす。凹凸無く延ばされた壁面には森とその向こうの丘の景色を上下反転したものがぼやけて映し出されている。
壁面の向かい側の壁の下、床の上に足を崩して座る毛皮を羽織った女が3人。壁面に映る上下反転した景色を見つめながら一人の女が話し、もう一人が竹簡に筆を走らせる。残りの一人が壁面を見つめて話す女の肩に手を置き、小声で復唱(相手の話している言葉を後から話すこと)している。
毛皮の女1「要点を整理する。煙が沈静化。目視による噴煙発生元の予測地は境界線上中央の丘。雲、境界線付近共に動きなし。周囲に未確認の円陣は確認できず。第一次報告を終了し、監視を続行する」
壁面に向かって話していた女が話し終えると、少しおくれて筆を置いた女が手元の竹簡をまとめ、麻で編んだ紐で縛り、復唱していた女に手渡す。
[竹簡同士がぶつかる音]
毛皮の女2「前線基地は臨戦態勢だ。やぐらに向けて旗を上げればあとは村の門まで抜けていい。とにかく急げ」
竹簡の束を受け取った女は小屋の階段を降り、入口の分厚い布を持ち上げる。持ち上げられた布の下から陽が入り、女の顔の輪郭を下から照らす。
毛皮の女3「了解」
毛皮の女は入口から外に出ると、緩い傾斜の下にある草原まで走る。
[草を踏む音・風の音・竹簡同士がぶつかる音]
傾斜の周りに残った枯れ木の側に縄で停めてある馬に近付く。枯れ木に巻きつけた手綱をほどき、手綱を馬のたてがみの後ろに投げる。馬の背中の上に竹簡の束を置き、腹に巻きつけられた太い帯を引いて竹簡の束を腹に巻きつける。馬の左腹の側まで歩くと左手で手綱を掴み、足元まで引きずられた岩に足を乗せ、勢いをつけて上半身を馬の背に乗せ、そのまま右足を回して馬の背に跨る。
[馬の鼻息・近づく低い風の音]
馬が頭を左右に振り、足踏みする。
毛皮の女「どうした、大丈夫か?」
[強い風の音・周囲の木々が揺れる音]
女と馬の近くの空を3つの人影が飛んでいく。人影たちは枝と側面を切り落としたツガの木(針葉樹の一種。幹、枝共に太い)に跨り、上昇しながら飛行して丘に向かう。
人影たちが飛んだ軌跡をなぞるように地面から土煙が上がり、人影たちの高度に伴って土煙の高さも上がっていく。
女はその人陰を目で追い、唾を飲み込む。
[境界線付近・上空]
ツガの木に跨って飛ぶ3人の人影。先頭を飛ぶ一人を除き、それぞれが深編笠(頭部を覆い隠すために被る、編み笠の一種)を被り、毛皮を縫い付けた厚い服を着ている。生地同士は縫い付けられ、足と手も布で覆われ、足首と手首の部分を紐で縛っている。先頭を飛ぶ一人は天蓋(ここでは、深編笠の一種のこと。深編笠のなかでも、特に形状が円筒に近いもの)を被り、手には麻布でできた手甲を巻き付けている。
ツガの木の表面には複雑な紋様が彫られ、両側面には折りたたまれた麻の帆布(帆船の帆などに使われる、厚手で丈夫な布)が巻き付けられており、先端部分には柄の長い錫杖(頭部に銅や鉄でできた輪形の金具が付いており、輪形の金具には遊環という別の小さな金具が4個または6個または12個付けられている、杖のような形状の道具)を括り付けている。風を押しのけて進むツガの木は3人を乗せてケンジが落ちた丘の方に向かう。
[遊環同士が激しくぶつかる音・強く吹く逆向きの風の音]
先頭の一人が右手を右に伸ばし、握り拳を後ろの二人に見せる。次に腕を伸ばしたまま拳を上下に数回振り、手を手刀(手で「チョップ」する時の形)の形に変えて、3人の眼下に見えてきた丘の方を指す。指した先の丘には、おさまり始めた土煙の下に、ひび割れた地面が見えている。
手刀から拳に戻し、肘を直角に曲げて拳を上に向ける。
[強まる風の音]
合図と共に3人を乗せたツガの木は上向きになり、高度を上げていく。
先頭の一人が再度右手を伸ばし、手刀の形に変えて肘を曲げてそのまま手を左右に振る。
後ろの二人は合図を見ると、手元の木の表面に巻きつけられた紐の結び目を片手で持ち、引っ張って結び目を解く。
[布が広がる音・布越しに伝わる強い風圧の音]
両側面の帆布が広がり、強い逆向きの風を受けてツガの木が後方にのけぞる。のけぞったままの姿勢で後方に滑空していく二人のツガの木を後目に、先頭の一人が土煙の上まで上昇する。
土煙の上まで飛ぶと勢いを弱らせ、空中で浮かぶ姿勢を取ると、手元に括り付けられた錫杖を手に取り、引き抜いて土煙の下に向ける。
[錫杖を引き抜く音・遊環同士がぶつかる音]
天蓋の人物のくぐもった声「囲め」
天蓋の人物の声を合図にツガの木の表面からいくつかの木片が弾け飛び、地上に落下していく。木片は土煙を裂く速度で落下し、ひび割れた地面の周囲に突き刺さる。
天蓋の人物のくぐもった声「結べ」
地面に突き刺さった木片が、ひび割れた地面を中心に内側に曲がる。木片より内側に地面に生えている草が中心に向けて倒れ、落ちてきた土煙が地面に吹き返してくる。
土煙に阻まれて明瞭でなかった地面が鮮明になり、そこには大きな穴が現れる。
上空でそれを見下ろす天蓋の人物は、穴の底に微かに見えるケンジの影を見つけ、少し顎を引く。
天蓋の人物「・・・人間?」
[境界線帯・丘・ケンジ落下地点]
ケンジが落下した地面は深く沈み、衝突の衝撃で周囲の地面もひび割れを起こしている。沈んだ地面の穴の底には、目を閉じたケンジが仰向けの姿勢で目を閉じている。
・・・痛ってェ、、、死ぬかと思った、、、
・・・
死ぬ?
・・・俺、死んだのか?
[セミの鳴き声]
ケンジ「ハッ!・・・アァッ!・・・」
[咳き込む音]
顔に落ちていた少量の埃を吸い込み咳き込むケンジ。両手を動かし、上体を起こそうとする。ケンジの身体には下着の布切れが残るばかりで、ほぼ全裸に近い状態である。彼の腕から首にかけてはミミズ腫れのように血管が浮き出ており、その表面には梵字の羅列が焼印のように刻まれている。
[小石や土が転がる音]
上体を起こしたケンジ。目の前にあるえぐれた地面の光景を理解できず、頭を上に上げて後ろの土の壁に託す。
穴の底から見上げる空は青く、遥か上の方まで澄んでいる。空の上、青から黒に変わるような高さのところに、赤黒い円が浮いているのが見える。円は空の上に向かって上がっていき、吸い込まれるように徐々にその輪郭を消していっている。
[微かに響き、遠ざかる甲高い奇声]
・・・なんなんだ、、、アレ、、、
・・・というか、ここは?
ケンジは頭を下げ、目線を元に戻す。身体には衣服を纏っておらず、ケンジの腹部の上に下着の布切れが一枚だけ乗っかっている。
ケンジは息を呑み、慌てて両手で腹部の布を抑える。
なんでだ、なんで俺全裸なんだ?
・・・飲み過ぎたからか?
いや、いやいや関係無い、飲んだだけじゃこうは、、、
・・・
ケンジは再度頭をゆっくりと頭上の空に向ける。
・・・落ちてきたからか?
[境界線帯・丘・森林境界線上]
[地面から舞い上がる大量の砂埃の音]
天蓋の人物を乗せ、前進しながら下降するツガの木。高度が下がるにつれ、地面から舞い上がる埃の量が減っていく。
地面に足を着け、足を回してツガの木から降りる天蓋の人物。片手に錫杖を持ち、地面に突き刺す。
[遊還同士がぶつかる音]
後ろの木々の間から、深編笠を被った二人が歩いてくる。深編笠を被った二人は、右手に錫杖を持ち、腰に巻いた帯には石の斧を差している。そして背中にかけた紐状の布にはは3本の矢と弓を結び付けている。
二人に背中を向ける天蓋の人物はケンジが落ちた穴の方を見つめている。
[足音・草を踏む音]
深編笠の人物1「未確認物体が2体、対向側の森林地帯を移動中。こちらに向かってきています。」
深編笠の人物2「あちら方の斥候部隊の可能性があります」
天蓋の人物「・・・」
天蓋の人物は頭に被った天蓋に手をかけ、天蓋を取る。天蓋の下には麻布の頭巾を被って頭を覆い、両目の部分を空けている。顔立ちと頭巾の隙間から微かに垂れる髪の毛から、その人物が女であることが分かる。
錫杖を地面から引き抜くと、穴の方向に向ける。
頭巾の女「持ち上げろ」
穴の底にいるケンジ。空の上で消えていく円を見つめている。
・・・ここは、、、地球、、、だよな?
ケンジの両肩が持ち上がり、身体が地面から浮き上がる。ケンジは自分の身体が徐々に持ち上がっているのを感じ取り、上を見上げる。
布を抑えていた両手に力を加え、下半身を隠すケンジ。
え?
・・・え?!
穴の上まで持ち上げられると、周囲の景色が見えてくる。目の前に広がるのは、眼下の草原と遠くまで広がる常緑樹の森。そして自分を見上げる3人の人物。
ケンジは先頭に立っている頭巾の女を見ると、目を丸くする。頭巾の女はケンジに錫杖の先端を向け、ケンジに向けて目を細め、睨みつける。
・・・あれは、、、人?女の人だ、、、手に持ってるのは、杖?
持ち上げられ空中に浮いているケンジは、下半身を両手で抑えた布切れで隠し、3人を見下ろしている。
あの人が持ち上げてるのか?あの杖で、、、
・・・
俺、ずっと睨まれてる、、、怖い
ケンジ「・・・」
頭巾の女「・・・」
頭巾の女は錫杖をケンジに向けたまま、ケンジを睨むように見続けている。ケンジの腕から背中にかけてミミズ腫れのように刻まれた梵字の羅列を目にすると、細めていた目を解き、ケンジの顔の方に目を動かす。
ケンジ「・・・あ、あの!」
ケンジが3人に向かって声をかけると、頭巾の女の後ろに立つ二人が互いに少し顔を向ける。
深編笠の人物1「・・・喋った?」
深編笠の人物2「あぁ、喋ったな。しかも我々の言葉を」
後ろの二人の会話を聞き、頭巾の女が口を開く。
頭巾の女「・・・何者だ」
ケンジ「、、、な、七生ケンジです!」
・・・日本語が通じた?
・・・
・・・通じたのか?
頭巾の女「何故ここにいる、どこから来た?」
ケンジ「わ、分かりません!家にいたら、急に倒れて、、、ここに、、、お、落ちてきました」
頭巾の女「・・・空の円陣は、お前の仕業か?」
円陣・・・?あの変な色の円のことか?
ケンジ「ち、違います。ここに落ちた時に見えただけで、、、」
頭巾の女「あの円陣をどこで見た?」
ケンジ「え、、、あ、、、そ、空です。雲の上で、、、」
頭巾の女はケンジの返事を受け、背中に左手を回し、二人に合図する。
(手の動作で):《応援要請、連行する》
頭巾の女の合図を見て、後ろに立っている一人が森の方に振り返る。錫杖を地面に突き刺して肩にかけた紐状の布を外し、弓と矢を手に取る。
矢の先端は布で包まれており、布をめくると白い粉がポロポロと落ち、黒曜石を削って尖らせたものが付いているのが分かる。黒曜石の表面には白い粉が付いており、右手でそれを触れないようにして矢の柄の部分を持つと、左手で弓の弓柄(弓を射る時に握る部分)を握り、弦に矢の後端の窪みを引っ掛けると、空に向けて弓を構え、右腕に力を入れて矢を引きつける。
[弦がしなる音]
頭巾の女「雲の上と言ったな。お前そんな高さから落ちて何故生きている」
ケンジ「、、、す、すいません、分からないです、、、なんででしょうか?」
頭巾の女「腕の魔法はどこで入れた?」
・・・魔法なのか、コレ、、、
・・・
・・・なんで魔法って分かるんだ?
ケンジ「、、、そ、それも分からないです」
頭巾の女が目線をケンジの手元に移し、ケンジが抑えている下着の布切れを見つめる。
頭巾の女「、、、服はどうした?」
ケンジ「、、、たぶん、燃えました、、、」
頭巾の女「そうか、そうだろうな」
[矢が空気を裂く音]
放たれた矢は空に向かい、素早く飛んでいく。木の上まで飛ぶと、矢の先端から煙が出始め、青白く燃え始める。
[破裂する音]
空の上で破裂する矢の先端。破裂した先端からは青白く燃える球体が分離し、周りの煙を照らしながら落ちていく。
ケンジ「おわッ?!」
破裂の音に驚いたケンジ。身体が一瞬痙攣して、手で抑えていた布切れを放してしまう。
ケンジ「あッ、ヤバッ!、、、」
頭巾の女の後ろに立っていた深編笠の人物は、素早く両手で覆い隠そうとするケンジを見て、顔を背ける。
頭巾の女はケンジから目を背けず、目を細めて睨みつけ、錫杖を強く揺らす。
[遊還同士が激しくぶつかる音]
頭巾の女「遮断しろ!」
頭巾の女がそう叫ぶと、ケンジの頭が揺れ、瞼が閉じる
[鈍い打撃音・画面暗点]
それは、凍えるような冬のある日。
人生の終わりの時に、まるでそれまでの人生をやり直しさせるかのように。
いつかの日にか見た、広がる緑の森と巨大な雲が浮かぶ夏に落とされた。
こうして俺は、七生ケンジは、床下の異世界に転移したのであった。