顔役へ
今回はパロなしです。差別用語が出てきます。時代のことを考えますと、ないわけにはいきませんので悪しからず。
右近と平次郎はそれぞれの得意な方法で情報を集めていく。
右近がまず向かう先は、川岸だった。
川岸には住む家のない者が住み着いていた。俗にいう非人と呼ばれる者たちである。
「失礼するよ」
右近がまず向かうは、このあたりの顔役のところだ。
「来たか、右近」
顔役が静かに茶を飲んでいた。右近は黙って有平糖と甘納豆の包みを複数顔役に渡した。
「お前ぇの持ってくる甘味はうまくていかんな」
「なら、要らんか?」
「ふざけんじゃねぇ。全部置いていきやがれ」
「無理だ。他にも渡すところがある」
「言うようなったなぁ、あの捻くれた餓鬼が」
この非人の顔役こそ、右近の幼少期を知る数少ない人物。名を善左という。
「今回はあの土左衛門だろ?」
善左の言葉に、右近は銅銭を目の前に置いた。是、の意味である。
「うちのシマにいる餓鬼が見つけた。見つけた時にはああなっていたって聞いちゃいるが」
ひょいっと甘納豆をつまみながら善左が言う。見つけた時には事切れていたのか、はたまた……。間違いなく後者だろう。
「運ぶにしてはでかすぎないか?」
「餓鬼共も不審がってたな。誰一人騒ぎを聞いちゃいねぇ。夜中に流されてきたのか、それにしちゃ傷がねぇってな」
「橋から落とされた可能性もないということか」
「そういうこって。武家屋敷からは遠いからな」
「あなたと話して謎しか残らないのは珍しいな」
「阿呆が。それくらい俺らの中でも謎に包まれていやがるんだよ。見慣れないやつなぞ、ここのところいない」
ということは、ここ最近流れ者すらいないということだ。疑わしき者が少なすぎる。
「雇われるとしたら、誰だ?」
「そりゃ、お前ぇだ」
「非人を雇って使うのがいたら誰だ」という意味合いと、「雇われて悪さをするなら誰だ」という意味合いの二つをかけたのだが、返ってきたのはこれだけ。
「両方とも俺はお前ぇしか思いつかねぇんだよ。こんな不可思議なやり方出来んのは」
……右近は返す言葉がなかった。
補足
エタや非人と呼ばれる方には必ず顔役がいたそうです。
因みに、エタは穢多と書き、「穢れが多い仕事」や「穢れ多い者(罪人)が行なう生業」の呼称だそうです。斃牛馬(「屠殺」は禁止されていた)の処理と獣皮の加工やまた革製品の製造販売などの皮革関係の仕事(これらは武士の直属職人という位置づけもあった)、刑吏・捕吏・番太・山番・水番などの下級官僚的な仕事、祭礼などでの「清め」役や各種芸能ものの支配(芸人・芸能人を含む)、草履・雪駄作りとその販売、灯心などの製造販売、筬(高度な専門的技術を要する織機の部品)の製造販売・竹細工の製造販売など、多様な職業を家業として独占していた。また関東では浅草弾左衛門のもとで非人身分を支配していた。一口に穢多といっても日本の東西で違いは大きいので注意が必要である。(ウィキペディアより)
非人は罪人や物乞いなど多様な人を含むそうで。基本的な職掌は物乞いだが、検非違使の下で掃除・刑吏も担当したほか、街角の清掃や「門付」などの芸能、長吏の下役として警備や刑死者の埋葬、病気になった入牢者や少年囚人の世話などにも従事した。また、武装して戦うことや葬送地の管理権を持っており、為政者から施行を受ける権利も有した(ウィキペディアより))
とのこと。歴史は奥深い!!