落ち着きのないお武家様
飴売りから買って戻れば、すでに遠坂が番所へ来ていた。そして、深編笠を被った武家も。
「お待たせいたしやした」
町人風の口調に戻した右近が、中へ入れば、すぐに火鉢のそばへ手招きされた。
火鉢を囲むように、編笠を被った武家、遠坂、平次郎、右近が座る。
「お口直しに」
買ってきた有平糖の包みと甘納豆の包みを一つずつ出した。
遠坂が一つ口にした後、武家も口に入れる。
「どこの飴だ?」
「お武家様もお気に召しやしたか。そこまで来ていた行商人で。甘納豆も隣で」
「ほう。なかなかに美味であるの」
「余ったら土産にどうぞ」
「有難くいただくとするか」
余ったらと言ったはずなのに、いそいそと飴の包みと甘納豆の包みを懐に仕舞い始めたお武家。皆が思わずジト目になった。
「……もう一包みだしやすね」
「すまぬ、右近」
遠坂が眉間のしわを揉んでいた。
「松壽殿から話は聞いたな?」
遠坂の問いに、右近は頷いた。
「あすこの藩は、お家騒動真っただ中で?」
「いや。……本人が継ぎたくないと言い、それをご内室が是とした。あすこの藩でも、大半がもう一人の側室がお産みになった異母弟を推しているらしい。否と言っておるのはあまりおらぬと聞いておる」
遠坂が「噂話」と称して拾ってきた話を、右近と平次郎に言う。右近が拾った噂と同じである。
「弥次郎様をお産みになった妾が、いい所の出とかですか?」
平次郎も不可思議そうな顔で尋ねた。
「それも否、であるな。ただ、弥次郎様の異母弟は未だ五つ。これを理由に弥次郎様へ家督を、と一部が言っておるだけらしい」
弥次郎の異母きょうだいはほぼ夭折しているらしい。今生きているのがその件の異母弟と弥次郎だけだと。
とすると、考えられるのは。
「乗っ取りか、断絶狙いか」
くくくく、と愉し気に武家が言う。
「妥当なところでやすな。まぁ、あえて今それを狙う理由が分かりやせんが」
「分かったら苦労などせん。平次郎、右近よ。すまぬが頼まれてくれ」
そう遠坂が言うと、武家と共に頭を下げた。
正体不明のお武家と遠坂が番所を出た後、平次郎と右近はほぼ同時に溜息をついた。
「ありゃ、ほぼ間違いなく弥次郎様のお父上だな」
「私もそう思う」
平次郎の見解に、右近も煙管を用意しながら同意した。
似ている。否、似すぎている。父親でなければ、弥十郎本人と言ったところだ。
「……流石に御年を増して出る渋みまではだせねぇぁからなぁ」
これまた右近は同意しかできない。そして弥次郎が未だ後継者から完全に外されない理由も、軽く理解した。
「どこぞの御三家のどなたかのように、勝手に旅に出ないといいんだがな」
早く旅に出たいがために、弥次郎を後継者にしているのではと、勘ぐってしまう。
「二人そろって旅に出そうで嫌だぜ。俺ぁ」
「……言うな」
「俺ぁ、供はしねぇからな」
「私だってする気はない」
苦労する未来しか見えない。
それに何やかや言って、右近はこの江戸が好きなのだ
供をする……という時点でお察しかと思いますが、
今回は水戸黄門だったりしますwww




