東海道は栗毛の馬で
パロはタイトルを見ていただければお分かりかと
「私をだしに使うな」
「あっしは松壽様に乗っただけですぜ」
「はははは。其方に奉行とか上様疑惑があったのだな。あのお方を笑えまい」
部屋を移動するなり、気安い話になる。前回の一件があってから、右近と松壽の間に繋がりがあることを隠さなくなった。
ひとしきり右近をいじり倒して笑った後、松壽が真顔になった。
「本日のご用件は」
「深川で土左衛門が見つかった。どうやら、あのお方に罪を着せたいらしい」
「ということは、またしてもあの譜代大名のに所縁あるお方で?」
店主の問いに、松壽は重く頷く。
「江戸屋敷の留守居だ。あのお方を厳しく躾けるよう、乳母に頼んできたほどの方だ」
「……とどのつまり、松壽様とそのお方は乳兄弟ですか?」
「よくぞ、わかったな」
「でなければ、そこまで詳しくは知らないでしょう。おそらくは江戸に来てからつけられた乳母でしょうか」
「うむ。あのお方……お名前を出してしまうが弥次郎様と仰るのだ。弥次郎様の母御は妾の立場であったらしくてな……側室のお産みになったご嫡男が夭折のおり、後継ぎとしてこの江戸へいらっしゃったのよ」
そこで松壽が一息つき、右近を見ると興味なさげに煙管をふかしていた。
「右近……其方……」
「生まれなんぞに興味はないんですよ。あの風来坊は元々のご性格……と。松壽様も苦労なさったんじゃありませんか? 木の上に登って降りてこない、あっさりと行方を晦ます。まぁ、その留守居も苦労なさったでしょうねぇ」
「……そう言われてしまえば、そうなのだが……。うぅむ、なかなかに憎めぬお方でな、振り回されたが、恨んだことは……ないな」
思い出すように、松壽が言う。その顔は何処までも懐かしむ顔であった。
「その留守居とも、一緒に駆けずり回って、風来坊を探されていらっしゃったと」
「うむ……其方、何故弥次郎様のお名前を呼ばぬ?」
「あの方、私に名前をなんと仰ったか分かります?喜多ですよ。てっきり伊達様の乳母からとられていたのかと思っていたのですが……」
「????」
「おそらく、本人は東海道を駆けて京に行きたかったんじゃないですかね」
それを言ったら、あんたの名前知らんがな、と言いたくなった松壽と店主であった。
はい、今回のパロディは「東海道中膝栗毛」です。
弥次郎兵衛と喜多八の東海道を行く旅のお話。
喜多八は弥次郎兵衛の陰間だというお話も……。
それはさておき……この物語、江戸のどのあたりという設定をしておりません。東海道中~の作られたあたりはすでに十一代将軍家斉の頃ですが……
そこまであとにしちゃうと、どうなんだろうという感じです。
ちなみに松壽様という奉行様はどの年代にもいらっしゃいませんので、悪しからず。
そこまでやっちゃうともっと時代考証をしたくなるので