如何様(いかさま)賽子と右近の観察
色々用語が出てきます。後程解説します
戻ってきた右近は以前と同じく、煙管をふかしながら、客の賭博に目を向けていた。
如何様はし辛いとはいえ、しないとは言えないのが博打である。
「松壽様、如何なさいました?」
「其方は後ろにも目がついておるのか?」
「失礼ですね、ついてませんよ。足音です」
「ほう?」
「初歩的なことですよ、松壽様。町人と武家では足音が違いますから」
賭場から目を離さずに、右近は話す。
「だからと言って私だとは限らないのでは?」
「あとはそれぞれに独特な癖がありますからね」
「其方、ほんにただの無宿か?」
「ただの、とは言いづらいですね。何せ、御用聞きをやっておりますから」
「そうじゃねぇでしょうよ、右近の旦那」
賭場の店主が話に割って入ってきた。
「そうじゃない、とは? 店主、あすこのつぼ振り。今から如何様をするぞ」
ぴしり、と店主と松壽の纏う空気が変わった。
「おそらく、四二かニゾロ、シゾロのどれかだな」
「……重りの位置ですかい」
「おそらく」
店主がすぐさま動いた。
「店主、なにするんでい!」
無理矢理開けたつぼの中の数字は、右近が予想した通りシニの丁だった。
「悪いが、この賽子はうちのじゃねぇな」
「店主!」
中盆たちが騒ぐのを、店主が一睨みで黙らせた。
「悪いが、今の賭博はなしだ。割らせてもらうぞ」
「ちょっ!!」
「グラ賽でなければ、騒ぐ必要もない。その時は責をもつ」
つぼ振りから賽を取り上げたのは、右近……ではなく松壽だった。
「いつ来てたんだよ!!」
一部の客が逃げ腰になっていた。
「先ほどだ。如何様でないというのなら、私が賽を割っても問題なかろう?」
やはり、四の目、二の目の裏に細工がしてあった。
「よくもまぁ、気づいたこと」
「そりゃ、一瞬で賽を変えておりやしたからね」
右近が町人風の口調で入ってきた。
「隣の中盆が本来の賽子を持っていやすね。置き賽やら捻り賽ができる奴を使える奴を探せなかったのが、運の尽き」
ぐいっと右近が隣の中盆の腕をひねった。持っていないはずの、賽がたんまりと出てきたことで、つぼ振りと共にお縄になった。
「やはり、其方隠密の者ではないのか?」
「違います。隠密が賭場で何するというんですか」
「あっしらの中では、実は上様じゃぁなかろうかという噂もありまっせ」
松壽の物言いに、店主があっさりと乗ってきた。すると、他の客も乗ってくる。
やれ、実はお奉行様じゃなかろうか、とか、言いたい放題である。
「奉行ということは無いな。私は会ったことがない。上様も同様だな」
じゃあなんだ? と皆は好き好きに話始め、先ほどの如何様はあっという間に忘れ去られた。
つぼ振り……その名の通り、丁半賭博でつぼで賽子を振る人
中盆……審判員兼進行係
グラ賽……重り等を仕込んだ特定の出目が出るよう、細工された賽子
置き賽、捻り賽……賽を振る人が特定の出目を出す手法
そして、今回の小ネタは
上様……サンバなあの方「暴れん坊将軍」
お奉行……桜吹雪のお方「遠山の金さん」
上様は貧乏旗本の三男坊に扮して江戸にいらっしゃるという設定だった。「余の顔を見忘れたか」と「成敗」が決め台詞
桜吹雪のお方……遊び人という設定。「この桜吹雪に見覚えがないとは言わせない」というお言葉が決め台詞。いろんな方が演じていらっしゃった……神無の中では松方弘樹さんのイメージだった……。TOKIOの松岡さんも最近演じてらっしゃいます。
「初歩的なこと~」……シャーロックホームズのお言葉から。「初歩的なことだよ」とワトソン医師に説明してくれる。神無にとっての萌えシーン。