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一角イノシシ -01

 カルロスとは、専属ではない契約をすることになった。例えば今日の午後のようにジャンが草スライムを獲りに行けない時に代わりに行ったり、もしくは少し足りないときにカルロスから購入したり。

 お礼としてスライム屋は、他の草スライムを扱う店にカルロスの紹介状を書くことにした。状態のよい草スライムを狩ってこれる業者ハンターはいくら居ても困らないのだ。


「それじゃあ獲れたら、優先的に持ってきますね。言ってくれれば、要望にあわせて獲るようにもしますよ」


 例えば草スライムの粉がほしいから、剣の腹で撲殺、とか。

 ディナーの一角イノシシメニューに思いを馳せながら、カルロスは獲物の槍を担いでスライム屋をあとにした。

 ほどほどに安くて安全な木賃宿、もみ殻羊亭を紹介したら、喜んだ。長くこの街に逗留するのであれば家を借りてもいいのだが、その前に多少の先立つものを得なければならない。カルロスはそう、あっけらかんと言ってのけた。


「じゃあ、俺も行ってくるね」


 そんなカルロスを見送ったあと、ジャンもいつもの装備に身を包んで店をあとにした。

 店に残ったブランシュとマリーで軽く店内の掃除をして、ディナーの下ごしらえだ。メインは一角イノシシを出さなければならないだろう。例えそれがなんであれ。


 ウィリーの一角イノシシ肉屋は大通り沿いにある。スライム屋からは、教会へと向かう道すがらにあるもので、マリーがよく伝言を持って帰ってきた。


 イノシシ狩りを手伝え、と。


「こんにちはー」


 昼を過ぎ、それもでもなおというべきか、昼飯時を過ぎたからというべきか、活気に溢れる大通りに敷き詰められた石畳をジャンは踏みしめる。


 ウィリーの一角イノシシ肉屋に、名前はない。

 一角イノシシのかしらに、肉切り包丁が刺さった看板が目印だ。

 誰かがいい感じの通称をつけることもなく、呼ばれるのは『ウィリーの一角イノシシ肉屋』とそのままで、なぜかウィリーの店とも一角イノシシ肉屋とも呼ばれない。

 取扱品に関してはものすごくよくわかるので、誰も困っていないからだ。


「おう、もちっと待ってくれ」


 店内には店主のウィリーと、その奥さん。ジャンと同い年の娘さんと、それから何人かのお客さんが物色していた。


「そうねぇ……肩の部分をもらえるかしら。寒くなってきたし、煮込みにでもしようかしらね」

「お、いいですねっぇ。じゃあ塊で」

「いやよ、ウィリーさんの手のひらサイズとか、食べきる前に悪くなるわ」


 一角のイノシシは、でかい。

 ここは街だからそうでもないが、あまり人の多くない村だと、一頭獲れれば一冬を越せる、と聞いたこともある。

 そしてその一角イノシシ専門店を開けるくらいに、デカブツと渡り合えるウィリーもまた、でかいのだ。

 一角イノシシを捌くための包丁も特注で、ウィリーしか使うことはできない。純粋にでかくて重そうだから持つ気も起きないと、ウィリーの娘のブーケは言っていた。そういう意味では、危なくもないようだ。


「ウィリー、肩とももの部分をもう少し小さいブロックにしておいて。そうしておいてくれれば、あとはこっちでやるわ」

「あいよ、シメーヌ。ジャン、これが終わったら出られるから、欲しい部位をブーケに言っておいてくれ」

「ありがとう、ウィリーさん」


 客足は途絶えていないが、シメーヌとブーケの二人が元々店番をしているから、ウィリーが抜けても問題はないようだ。

 ウィリーの仕事は一角イノシシを仕留めてくることと、一角イノシシを捌くことだ。


「いつも通り、全部の部位を少しずつと、ソーセージで良いのよね? ハムとベーコン、耳と脂はどうする?」

「ソーセージをすこし少なくして、ベーコンに回してもらえる? 耳は今父ちゃんいないし、帰ってきた後でいいや」

「わかったわ。あ、そうだ。家用だけど、この間塩漬け作ったの」

「ベーコンじゃなくて?」

「バラ肉をベーコンより塩と脂を多くして漬け込んだの。ベーコンはフラピエールさんに頼んで薫製にしてもらうけど、これは家で漬けるだけで良いの」

「美味かった?」

「ええ。塩抜きが必要だけれど、結構もつしいいわよ」

「じゃあ、レシピ付きでバラ肉にもちょっと振って」

「はーい、いつもありがとうね。できたら食べに行くから教えて」


 渦巻木うずまきの皮で作った伝票に、さらさらとブーケがメモを取る。

 そんなやり取りをしているうちに、ウィリーはシメーヌから指示された部位を、シメーヌとブーケでも加工出来るサイズまで捌いて、狩りの準備も整えた。


「おう、待たせたな。じゃ、行くか」

「はい、よろしくお願いします」

「なに言ってんだ、よろしくお願いするのはこっちだろう」


 体に見合った大きな声で笑って、ウィリーは店を出た。

 そのまま大通りを門の方へと向かうが、街を出る前にウィリーは、一軒の店に寄った。


「よう、いらっしゃい」

妖精馬バヤールはいるかい?」

「おう、いるいる。赤毛のかわいこちゃんが」


 貸馬屋である。

 ジャンとウィリーの二人だけでは、倒した一角イノシシを持って帰ってくることは出来ない。業者ハンターを雇ってもいいが、それよりも妖精馬バヤールを借りた方が安く上がるのだ。

 ウマにはない体毛色を持つ妖精馬バヤールは、飛ぶように走るしなんなら本当に空を飛ぶ個体もいる。体のサイズを自在に変えることの出来る個体もいれば、どんな重いものでもなんなくそりに乗せてしまう個体もいた。


「ウィリーとジャンが揃ってうちに来たってことは、今日の晩飯はスライム屋だな。で、ジャン。メニューはなんだ」

「まだ決まってないよ。俺じゃなくて、母ちゃんかマリーに聞いてくれ」

「まったくお前って奴は商売ってもんをわかってない。が、わからんなら仕方がない。後でうちの小僧にひとっ走りカツレツって伝えに走らせるか」

「俺は串揚げだな」

「今のスライム屋のメニューは減ってるんだ。選択肢を増やすなよこの馬鹿ウィリー!」


評価ブクマ、ありがとうございます


次回更新は1月22日(水)12時になります

次回は少し残酷描写があります

私としては少しですが、駄目な人には駄目かもしれないのでご注意ください

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