草スライム -04
新年明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い致します。
「まだいいわ、こっちもまだ皮が出来ていないから」
ブランシュはボウルに水をいれ、二種類の粉を混ぜ合わせて皮を作っていた。この皮だけをスープにいれても美味しいし、皮に具を包んだものを煮ても美味しかった。
草スライムは香草を好んで食べると言うその特性上、その粉もいい香りがする。
とくにスライム屋の草スライムはすべてまとめて粉にするから、色々な香りが混じりあってそれが更に食欲をそそった。それを庶民の料理だと馬鹿にするものもいるが、実際に庶民が食べる料理なのだから気にする必要はないとブランシュは思っていた。
「わかった、じゃあ先に挽いとく」
ジャンは視線をすり鉢に戻し、また丁寧に草スライムの粉を挽いた。
「ただいま!」
のれんがかかっていないスライム屋のドアが開いて、少女が駆け込んできた。
「おかえりなさい」
「おかえり」
ジャンの妹のマリーだ。
顔のパーツは似ていないが、二人はよく似ていると評されることが多い。実際には性格もかなり違うのだが。
「お兄ちゃん、ウィリーさんが午後手が空いたら手伝ってほしいって」
マリーは店の奥にある階段を登って、二階にある居住部分へと荷物を置きに行くついでに、ジャンへ伝えた。
トン、トン、トンと軽い音を立てて、マリーは階段を上っていく。そして少し静かになったと思ったら、またトントントン、と軽い音と共にマリーが降りてきた。
「お母さん、テーブル拭く?」
ジャンの妹のマリーはまだ幼い。
教会で行われている幼年学校に通うようになったのも半年前だし、まだジャンのようには店の事を手伝えはしない。
「その前に、店の前を掃いてきておくれ」
「はーい」
台拭きを手に取ろうとしていたマリーは、店の外へ出る。
調理場にある裏口から外に出て、箒とちりとりを持って店の前を破棄清め始めた。
「あらマリーちゃん開店準備?」
「うん、お母さんはスープ作ってたよ」
まだ、匂いは店の外へ流れていない。
メニュー看板もまだ出さないが、慣れている近所の人などはマリーが帰ってきて、店の前の掃除などの作業を開始したら、開店時間が近いことを知っている。
そのやり取りを聞きながら、ジャンは粉を挽き終えた。
「肉、とってくるね」
軽くなった粉袋と、重くなった壺を所定の位置に戻して、エプロンの前を軽く払う。残った粉が床に舞うが、さすがにエプロンについた分は客には出せない。床は、あとで掃除をするから問題もない。
「よろしくね」
地下室は、店の外にある。
地下食料庫、と言った方が正しいか。
そこは食料の保存に適した作りになっていて、少し、肌寒い。入り口のドアは重く、外の熱気も、中の冷気も逃がさないようにきっちりと閉まっている。マリーはもとより、ブランシュも開けるのは難しかった。
したがって、この食料庫に食材を取りに行くのは男連中の仕事であった。
そういえばはじめて、スムーズにこの扉を開けることが出来た時は嬉しかったなと、ジャンはここに食材を取りに来る度に思い出してしまう。
割りと、最近の話だったりするもので。
食料庫の両脇にある棚から、オオ鳥の胸肉を一塊、それからかごに入った一角イノシシのソーセージ。
一角イノシシは体のサイズに合わせて腸は太く、長く、羊のソーセージや豚のソーセージとは一本の重量が違う。ソーセージのくせして、ハムの方が近いのではないかと思うほどだ。
それを二本、ジャンは手に取った。
店に戻れば、店の前の掃除を終えたマリーが今度は店内にはたきをかけていた。掃除は、上から下へ。
まだ幼いマリーはそれを忘れて、ついつい簡単に綺麗になるテーブル拭きを先にやりたがる。気持ちは、わからなくはない。
「持ってきたよ」
はたきがけを終えたマリーは、今度はモップを持ってきて床掃除だ。彼女の軽いからだでは、乾拭きと大差がない。
「ありがとう」
だからジャンは持ってきた肉類をブランシュに渡すと、マリーの方へと歩を進めた。
ブランシュは一塊のオオ鳥の肉を二つに切ってわけ、そのうちの半分を一口大に切って鍋へといれた。水と塩と野菜で作られたコンソメスープに、オオ鳥の脂と歯応えがアクセントになる。
残りの半分は大きな包丁を二本使ってミンチにした。細かく叩いて叩いて、同じようにみじん切りにした野菜と混ぜ合わせる。
「モップがけは俺がやるから、母ちゃんを手伝ってきて」
床を濡らすだけで汚れがとれるわけではないモップがけを、それでも懸命に行っていたマリーに、ジャンは手を差し出した。その手にモップを渡して、マリーは厨房へと入っていく。
「ありがと。あとよろしくね」
マリーは掃除用のエプロンをはずして、調理場用のエプロンに付け替える。掃除の際に着いた埃や汚れが、料理に落ちたらもうその日は商売ができないからだ。
「お母さん、なにする?」
ジャンはモップに力を込めて、床掃除を始めた。昨夜の汚れは閉店後にとってあるから、さっきのはたきがけで落ちた埃を拭うだけいいのだけれど。それでもつい癖で、腰をいれてモップがけをしてしまう。
「皮はもう作ってあるから、半分……そうねぇ、五つに分けて、そのうちの二つを一口大にして、綿棒で伸ばしておいて」
マリーはブランシュに返事をして、彼女でも安易に扱うことができる小ぶりの麺棒を手に取った。
とりあえずはここまで。
タイミングを見つけて続きを書きたいですがどうなることやら。