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草スライム -03

 ジャンの父親のナマンがいた頃は、ランチメニューは三種類あった。けれどナマンが遠征に出ている今、ランチメニューは一種類だけだ。

 だからジャンは考える。どうすれば父ちゃんが遠征にいっている間でも、三種類は難しいかもしれないが、二種類はコンスタントにメニューを作れないものかと。


「そう、ちゃんと父ちゃんの言うこと聞いてやる、っていうならいいわ」


 ブランシュはサラダに必要な分の野菜をすべて切ると、大きなボウルにそれをいれた。おしゃれな店のランチでは、野菜の上にドレッシングをかけるが、スライム屋ではランチが供される時点ですでにドレッシングはまぶされている。

 スライム屋のドレッシングは、ブランシュの手作りだ。ドレッシングだけ売ってほしいと言うおかみさんもいるが、それはお断りしている。


「もちろんだよ。父ちゃんをビックリさせてやろうなんて、とくに思わないしね」


 ブランシュは棚からドレッシングのはいった壺を取り、野菜にたっぷりとかけて混ぜる。こころもち多目にかけた方が、よく野菜と馴染んで美味しい。


「ビックリさせるのはさ、なにも勝手にやらなくたってできるじゃない?」


 ジャンは麻袋の中から、それなりに大きいスライムの本体を取り出した。

 パン切りナイフのように、刃の部分がノコギリ状になったナイフでゆっくりとふたつに割り、体の中で砕けている核の部分を取り除く。この核の部分は、炙ってタレをかければ、ほどよい酒のつまみになる。


「例えば?」


 三匹すべての草スライムから核を取り出して、小皿に開けてカウンターに置く。

 下ごしらえはジャンも行うが、調理自体はブランシュの仕事である。隣で同じように調理しても、なぜか同じような味にならなかったので、ジャンは早々に諦めていた。


「父ちゃんから教わったときはまださっぱり使えなくても、遠征から帰って来た頃には槍で朝の内に四匹取れるようになってるとか、いいサプライズだと思わない?」


 核を抜いた草スライムを麻袋に戻し、すりこぎで何度か叩いて小さい麻袋にはいる大きさに砕く。欠片を小さい麻袋にいれて更に小さい欠片へと砕いて、すりこぎで粗挽きの粉にする。


「そうね、確かにそのサプライズの方が、父ちゃん喜ぶわ」


 カウンターに置かれた草スライムの核を、調理場の戸棚の中に仕舞いながら、計良計良と声をあげてブランシュは笑った。


 ジャンは無鉄砲な若者ではない。

 業者ハンターになるような若者のほとんどは絵に描いたような無鉄砲さで、ジャンの父親のナマンもにたようなものだ。

 今でこそ安心して、片道一週間はかかる距離にあるデュナンの町から更に一日半歩いた森の中にある毒の沼の側に生きる沼スライムを一人で獲りに行ったとしても誰も心配しなくなったが、ブランシュに出会った頃、今のジャンと同じくらいの年頃は、ソロでいきなり飛ウサギや一角イノシシに挑むような若者だった。


「まあ、剣も使えるようになって損はないから、これからも鍛練はするよ」


 ジャンは草スライム三匹分を、話ながらとはいえすべて粗挽きの粉にして、すりばちから粉入れへと移した。最後に専用の刷毛ですり鉢に残った分を袋へとすべて落とす。

 草スライム三匹分の粗挽きの粉は、小さいとはいえ粉袋一杯分となる。多いか少ないかは、やはりその個体の大きさと、料理が出る量で変わってくる。

 メニューにもよるが、これだけあればランチの分には足りるだろう。


「飛ウサギとか、一角イノシシとかは槍より剣の方がいいって聞くしさ」


 粗挽きにした草スライムの粉は、料理の用途に合わせて更に細かく引いたり、そのまま使用したりする。

 袋の置いてある場所のとなりにある棚の中程に、細かく引いた草スライムの粉をいれた大ぶりの壺がある。

 ジャンは壺の蓋を開けて中を覗いた。

 三分の一も残っていないから、今日使わないと言うのでなければ作った方がいいだろう。


「それで、今日のメニューはどうするの?」


 まだランチタイムまでは時間がある。

 ブランシュは一杯になった草スライムの袋を見て、今日のスープをゆっくりとかき混ぜながら、考える。


「そうだ、久しぶりに団子スープにしようか」

「ああいいね、俺あれ好きだ」


 ブランシュは壺に残っていた、細かく引かれた草スライムの粉をボウルへとあける。それから、粗挽きの粉をそれより少ない分量、ボウルへとあけた、


「三分の二くらい、細かく引いておくれ」

「はーい」


 壺を、すり鉢の置いてあるたらいのそばへと持っていく。使っていないボウルに、草スライムの粗挽き粉を入れて、たらいの中ですり鉢から溢れないように量を加減しつつジャンは草スライムの粉を挽き出した。


「ジャン、挽き終わったら、地下室から鶏肉とってきてちょうだい。オオ鳥を一塊と、そうだわ、一角イノシシのソーセージ、切っていれましょうか」

「もうちょっとかかりそうだから、先に取ってこようか?」


 ボウルの一杯分では、粉袋の三分の一には遠く満たない。何回かたらいと粉袋を行き来する必要が生じていた。ジャンはまだ二度目のボウルの中の粗挽き粉を挽いていて、すぐには行くことができそうもなかった。


年内最後の更新です。

次は1月2日(木)になります。

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