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草スライム -02

「っふう」


 ジャンは一匹目を倒した後、順調に二匹目と三匹目も倒した。勿論クリストフや他の熟練業者ハンターとは違い、一撃で倒すことは出来ていないから、それなりに時間がかかっている。

 それでも、陽のまだ射さない早朝に街を出て、まだ午前のそれなりに早い時間のうちである。


「そろそろ仕込みもあるから帰らないとな……んー、草スライム倒すならやっぱり、槍のがいいのかなぁ」


 朝袋を担いで、周りを見渡しながらそう口の中で呟く。

 クリストフを始め、慣れている者達は皆、槍を背負っていた。

 ジャンのように剣を携えている者達は、草原の街に近い場所ではなくもっと遠くへ足を伸ばしているようだ。

 草スライムではなく、草スライムを餌さとしている他の生き物たちを狙っているのだろう。

 空中で二段ジャンプをする飛ウサギ、死ぬと脆く崩れ去ってしまう角を持った一角イノシシ。


 今のジャンでは捕まえるのは難しいが、その二種は、肉が、とても、旨い。


「おはようジャン、とれたかい?」

「おはようおばさん。まあぼちぼち」

「あれじゃあ今日はスライム屋にいこうかしら」

「毎度ごひいきにー」

「おうジャン、今日のランチは何になりそうだ?」

「さあ? まだ納品してないからなぁ。開店前にはいつも通り黒板書くから、それ見に来てよ」

「そうすっかねぇ」


 街を歩ければ、産まれ育った街だけあって、知り合いがちょくちょく声をかけてくれた。

 ジャンの生家は飯屋である。それも、昔ながらのスライム定食屋。

 最近流行りの香草亭なんかはランチは一回銀貨一枚から。からが怖い、あそこはちょっと良いことがあったときに行く店だ。

 ディナー? 金貨三枚くらい財布に入ってる時じゃないと、怖く行けたもんじゃねぇよ。とは、店の常連のおっちゃんが同じく常連の兄ちゃん達にご高説をたれていた時の元だ。

 それでも、プロポーズするときは張り込んででも友達に頭下げて金を借りてでも香草亭に行く人は多いし、年に一度くらいは香草亭にランチでいいから旦那と行きたい、というのが同様に兄ちゃん達に心意気を教え込んでいたおかみさんたちのコメントである。

 それをうちで言うのかと突っ込んだら、

「そうやって笑って突っ込んでくれる女の子を選ぶべし」

 と教訓にされてしまった。


 街の飯屋であるスライム屋は、メインの大通りから外れた住宅街よりのところにある。ジャンの母ちゃんが一人で切り盛りする飯は、味がよいと評判だ。

 今、専属の業者ハンターであるジャンの父ちゃんは少し遠いところまで仕入れにいってるため、ジャンがこうして朝から草スライムを取りに行っている、という訳だ。

 ジャンがそれなりにコンスタントに草スライムを取れるようになってきたから、父ちゃんは遠くまで行けるようになった、とも言う。


「ただーいまー」


 まだのれんの出ていない店のドアを開けて、ジャンは自宅へと戻る。


「あら、早かったじゃない」


 店の中ではジャンの母親のブランシュが、今日のランチの仕込みを開始していた。

 調理場の奥には木箱が積み重ねて置いてあり、今朝八百屋のクレマンから届けられたキャベツ、人参、豆類、クレソンが必要なものは煮られ、必要なものは細かく切られていた。


「うん、大分慣れてきたみたいだ」


 ジャンは背負った麻袋を調理場の床へと置く。

 それから、近くに置いてあった少し小さめの麻袋と、草スライム作業用のたらい、すりこぎを手に取り、ブランシュの作業の邪魔にならない場所に粗挽き用のエプロンをつけて座り込んだ。

 しばらく前はランチギリギリになってからようやく帰ってこられた事を考えれば、確かに大分手早く倒せるようにはなってきた。それに最近では周りを見る余裕もできてきたと思う。

 その証拠に、自分が一匹倒す間に三匹倒していた他の業者ハンターが脳裏を掠める。


「ねえ、母ちゃん」


 たらいに小さい麻袋の口を開いて置き、そこに草スライムの欠片をいくつかいれる。左手で麻袋の口を押さえるように持ち、右手に持ったすりこぎで麻袋を叩く。


「なぁに」


 がん、ごん、がつん。

 すりこぎが草スライムの欠片にあたり、砕けていく。


「やっぱり、俺も槍がほしい」


 そしてすりこぎの先端部分で殴り、欠片を増やす。先端で割りきれなくなったら麻袋の口を開いてたらいの中に置いてあったすり鉢にあけ、細かく引く。



「槍ねぇ……うーん、そうねぇ」


 ジャンの装備のほとんどは、業者ハンターである父のお古だ。その事に、ジャンはとくにこれといって文句はなかったし、今もない。


「別に、今すぐほしいとか言うつもりはないよ。多分、買って貰ってもすぐにうまくは扱えないだろうしさ」


 麻袋一杯分の草スライムの欠片では、大ぶりな擂り鉢の一杯分には満たない。

 ジャンは草スライムをいれてきた麻袋から、また欠片を取り出して小降りの麻袋に放り込み、すりこぎで叩いて欠片を小さくする。

 三回くらい繰り返すと、小さな草スライムの欠片はすべてすり鉢へと入っていた。

 ジャンは両足ですり鉢を固定すると、すりこぎでゆっくりと草スライムを粉にする作業に取りかかる。


「父ちゃんが帰って来たら古いのを貰うか、中古屋で買ってもらって、使い方を習った方がいいんじゃないかと思ってるんだ」


 片方の手ですりこぎの頭を持ち、もう片方の手ですりこぎの中程を持つ。上の手を奥へ、なかをつかんだ手を横へと動かし、8の字を描くようにすりこぎを動かして、小さな欠片を粗挽きの粉にした。


「こうやって三匹も取ってこれれば、ランチには足りるし何日かに一度はディナーにも少しは回せるだろ? けどさ、うまく槍が使えるようになれば、もうちっと綺麗な草スライムが取れるようになるみたいなんだ」


 ジャンは粗挽きの草スライムの粉を、粉入れの袋へとあけた。残りはまだ袋の底に残ってはいるが、これだけではランチには足りない。

 一回につき三匹の草スライムだけでなんとか店を回していけているのは、マリエットさんのところのパンを買っているから、というのもある。

 草スライム三匹をこうして粉にして主食に回しても、綺麗に何匹か獲ってくることができれば、メニューに幅を持たせることができるようになるだろう。


次回投稿は12月31日(火)、年内最後になります。


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