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とある天使たちの非日常

今回は途中で777号視点に切り替わります

地の文を変えるべきなのにあまり変わらない…!


 

 魔力を両腕に集め、いつ攻撃が来てもいいように構える。心臓の音がやけにうるさく聞こえて、嫌でも緊張感が高まってしまう。


 タイミングを外せば終わりだ。

 一撃でやられるとは思わないが、先ほどのダメージもある状況でこれ以上の攻撃を受ければ勝ち目はだいぶ薄くなってしまうだろう。


 2組の天使を同時に見ることはできない。

 だから、空間の魔力の流れを見切る。

 普通の視界以上に魔力の流れを注視すると、まるで俯瞰しているかのように食堂全体の空間に染み付いた魔力、そして2つの絡み合った魔力の高まりを感じた。


 その魔力の高まりが魔法として組み立てられ、今にも弾けそうに膨らんだ――


 その時、校庭の方から派手な爆発音と魔力の余波が放たれた。


 U型特有の、力強い魔力だ。

 それが777号によるものなのか、それとも暴走した天使によるものなのかはわからない。


 ただ一つ確かなのは、その爆発音がこの静寂を破ったということ。

 爆発音とほぼ同時に、前後から爆発的な魔力が迫る。炎と雷の魔法が合わさった、高威力の光線だ。


 もちろんこれもタイミングをずらして撃たれていて、どちらかを回避すればどちらかに当たってしまう。それを確認した俺は、双方の光線を両手で受け止めた。


 777号との戦いで使った、魔力反射。

 だが、ただ反射するだけでは足りない。


 そもそもあの技は片手で受け止め、片手で跳ね返すという力技により成り立っていたので今回のような場面では使えない。


 だから、今回は受け止めない。

 光線を受けた反動を利用して、くるりと半回転する。


 両手に留まっている魔力に自分の魔力を染み込ませ、放つ角度を調整する。

 抑えていた魔力を解放すると、2つの光線はそれぞれ目の前の暴走天使へと解き放たれていった。


 魔力を受け止め投げ返すのではなく、魔力そのものに働きかけて操る技術。

 それは、周囲の魔力を使い空中を歩く技術の応用だった。


 自分のものではない魔力の制御を行うコツが、このとっておきの根幹を支えていた。


 今回は角度を変えて相打ちさせたが、もちろんそのまま跳ね返すこともできる。

 魔力消費も利便性も格段に向上した、ゼロの俺の新たな戦い方だ。


 すれ違った光線は4人の暴走天使のうち2人の胸あたりを貫き、戦闘不能にさせた。

 急に相方がやられて驚いたその隙だらけな顔面を踏みつけてやり、そのまま地面へとめり込ませる。


 これで残る暴走天使はひとり。

 攻撃に警戒しながら振り返ると、そこには誰もいなかった。


(しまった!見失ったか…いや、違う!)


 さっきまで暴走天使がいた場所を睨みつける。

 ただ見るのではなく、再び空間に漂う魔力の流れを見切るように凝視した。


 するとそこには、不自然に途切れた魔力の残滓が見て取れる。間違いない、転移魔法の痕跡だ。

 しかし転移先までは見通せない。


 ひとまず777号と合流するべきだろうか。

 そう悩んでいると、学校中に声が響いた。

 思い出すだけで吐き気がするような、悪魔の声だ。


「あー、あー。聞こえているかな、天使モドキの諸君」


 ◇


 ゼロと分かれ、校庭に向かう。

 魔力の残りは心許ないが、暴走した天使ごとき10人いても蹴散らせる。


 とはいえ天使の輪をフル回転させ、魔力を補充しながら走っていると数人の天使とすれ違う。

 暴走している気配は無いので逃げてきた生徒なのだろう、軽い傷がいくつかついていた。


 いくら暴走しているとはいえ、傷をつけた獲物を逃がすとは思えない。

 誰かが先に戦っているのだろうか。


「チッ、出遅れたか?それか…」


 必死に足止めを買って出た馬鹿がいるのか。

 どっちにしろ、やることは変わらない。

 サッサと追いついて、まとめて片付けてやるだけだ。


 校庭に出ると、三人の暴走天使がひとりの天使を囲みながら襲いかかっていた。

 それも、4枚羽のU型三人。


 どれだけ動いても包囲を崩さない、厄介な戦い方だ。

 囲まれた天使もなんとか食い下がっているが、あれじゃあ時間の問題だろう。


 まとめて焼き払ってもいいが、味方を巻き込んだら48号にグチグチと言われるのが目に見えてる。

 無駄に魔力を食うが、狙って撃ち落とす…!


「墜ちろ!」


 三本の線となった炎を撃つ。

 暴走天使の羽を過たず穿ち墜落させるはずだったその攻撃は、しかし黒くなった羽根に阻まれて思ったほどのダメージは無かった。


 三人の暴走天使はこちらの方が脅威となる判断をしたのか、ボロボロになった天使を無視してこちらに向かってきた。


 けどむしろ好都合だ。

 巻き込む心配をしなくていいなら、全開で叩きのめして首輪をつけるだけ。


「いい判断じゃねーか。だが、どれだけいい判断をしても結果は変わらねえけどな。全員まとめて、這いつくばらせてやるよ!」


 3枚の羽を広げ、魔力を解き放つ。

 校庭全体を覆うほどの魔力で、この空間を支配してやる。


 そう思った次の瞬間。

 校庭の半分が、暴走した天使の魔力に覆われた。


「…チッ、こいつら操られてるな」


 魔力による空間の支配は相当緻密な魔力のコントロールが必要になる。

 ただ魔力を解き放つだけでは霧散してしまうし、形を持たせようとすれば物質的に纏まってしまう。


 空間に魔力を染み込ませるように支配を安定させるなんて高等技術は、暴走しているような天使に扱えるものじゃない。


 空間の支配権を奪うべく魔力を高めるが、相手が三人もいると流石に分が悪い。


「なら先手必勝、頭数を減らすだけだ!」


 半分はまだこっちが支配してる。

 早めにケリをつけないとまずいが、所詮4枚羽。

 暴走したところで、たかが知れてるんだよ!


「まず一匹…死ねぇ!」


 魔力の光線を放つ。

 高密度の魔力に指向性を持たせて撃ち出すだけの技だが、空間の支配と合わせないと束ねた魔力が解けてしまい威力が半減する。


 それどころか、敵に空間を支配されているのなら光線は霧散してしまいロクなダメージにならない。

 そう危惧した通り、支配の境界で光線は弾けて手傷を負わせるにとどまった。


 向こうからも炎の光線が飛んでくるが、境界を越えた瞬間に一気に削り取り、最後は素手で握りつぶせるような威力にしかならなかった。


 遠距離戦じゃあラチが明かない。

 直接殴って目を覚まさせる。

 空間を支配している魔力の一部を体に纏わせて、一気に突っ込む。


 ゼロ野郎が好んで使う戦い方を真似するのは癪だが、今はそうも言ってられない。

 まるで水の中のように息苦しく動きにくい、敵に支配された空間を無視して突っ切る。


 長居は禁物だが、数秒なら無視できる。

 今度こそ、まずは一匹仕留める…!


「ゼロ距離で食らいやがれ!」


 思わずゼロ野郎のような威嚇をしてしまった。

 暴走している天使のうちの一人、その胸元に指を突き立てて魔力を爆発させる。


 内側から焼かれたその天使は、口から煙を上げて吹き飛んでいった。


 殺してはないが相当重症だな、アレ。

 暴走して操られるなんて自業自得、無視して次の獲物に向かう。


 生意気にも炎を纏い始めたその天使には、さっきの技は使えない。

 だが、自分から火をつけるなんて馬鹿もいいところだ。


「考えがあめーよ。後手に回ってるだけじゃいいサンドバッグにしかなんねーな」


「……!?」


 感情らしい感情、言葉らしい言葉を失っていた暴走天使が呻き始める。

 それもそのはず、炎を纏ったその天使を魔力で閉じ込めて蓋をしてやった。


 魔力を物質化させて物理的に閉じ込められた天使は、自らが放つ炎の熱で茹でダコ状態だ。

 慌てて炎を消そうとしてももう手遅れ、十分に熱された魔力の塊で暴走天使を強く包み込む。


「………!!!」


 肉を焼くような、熱した鉄を押し付けるような音と共に天使の断末魔が響く。


 断末魔なんていうが死んではねえだろう。

 良くて全身火傷で全治一ヵ月ってところだ。

 せいぜい腕のいいR型に土下座するんだな。


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