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とある天使と暴走天使

 

 一瞬で嫌な想像が全身を駆け巡り、辺りを警戒する。

 いつでも戦えるように魔力を全身に巡らせて空から何かが降ってこないか必死に確認していると、777号と48号さんもこの異常に気づいたようだった。


「おいゼロ、突然どうした?」


「空だ。もう2人とも魔力を抑えているのに、いつまでも空が暗いままなのはおかしくないか?」


「たしかにおかしいです。777号くんはともかく、私は治癒魔法の密度を上げるために泉を覆う程度にしか魔力を展開しませんでした。その時点で空は晴れていてもいいくらいです。それが一向に曇ったままというのは…何かが起こっているのかもしれません」


「俺は…ともかく…」


 777号が軽く傷ついているが、事実その通りだ。

 いや、全力を出すと777号の魔力制御が雑になるということではなく空模様の話だけれど。


 念のため750号の容態を確認すると、意識こそないが異常は見当たらない。

 つまりこの事態は俺たちではない別の何かが原因ということになる。


 かといって空から悪魔が襲来してくる様子もない。

 焦る気持ちを持て余していると、不意に校舎から爆発音が響き渡った。


「何事だ!?」


「事故か暴走か、どちらにせよ非常事態に変わりはなさそうだ。48号さん、750号をお願いします」


 空中を蹴って爆発音のした方へ向かう。

 戦闘のためにと習得した技術だったが、移動の面でもとても便利だ。


 777号と共に校舎にたどり着くと、そこはまるで地獄絵図といった様相を呈していた。

 羽が半分ほど黒くなった天使が暴れていて、周囲に破壊と汚染を撒き散らしている。


 それも1人や2人ではなく、数十人といった天使が暴走してしまっていた。


「暴走…いや、あの羽の黒さは堕天!?でも意識ははっきりしてない、確実に暴走もしている!」


「理由探しなんて後だろ!とりあえず片っ端から押さえつける!」


 777号と手分けして鎮圧していく。

 暴走しているとはいえ2枚羽だ、俺たちの敵じゃない。


 777号は倒れた天使を本当に片っ端から封印しているが、俺はそんな器用なことはできない。

 ひとまず意識を落とし、777号に押しつけるように投げ捨てた。


「この…!手間増やしやがって、少しはまともな技覚えろ脳筋ゼロ野郎!」


「羽もないのにそんな器用なことできるか!この程度片手間で十分だろ?」


 軽口を叩きながら制圧していく。

 暴走しているのはM型とR型がほとんどだったので、封印を任せる分こちらはM型を狙いにいく。


 M型らしく豊富な魔法を放ってくるが、どれも遅すぎる。雷を避け炎を魔力で防ぎ、魔力の籠もった暴風を気にせず突っ込んで頭に一撃。

 それでほとんどの暴走天使たちは意識を失った。


 R型が自己治癒と活性を活かしてがむしゃらに攻撃してくるが、14号さんと15号さんに比べれば止まって見えるほどの遅さだ。


 777号は魔力の嵐でまとめて蹴散らし、本当に片手間に倒れた天使を封印していた。

 戦いながら封印魔法を連発するなんて、やはりかなりの実力だ。


 単なる強さというだけではなく、確かな技術を持っているような印象を受ける。

 777号も、どこか優秀な天使の元で修行を積んでいたのだろうか。


 2枚羽の暴走天使を制圧し終え、一息つく。


「これで全部か?くそ、魔力がほとんど持っていかれた…」


「助かった。俺は封印魔法なんて使えないからな、この数を封印するなんて大した魔力だ」


 黒い魔力が漏れ出さないようにだろう、かなり強力な封印が全ての倒れた天使に施されていた。


 しかし、なぜR型とM型ばかりが暴走していたのだろう。

 それに、堕天した証である黒い羽。

 半分ほどではあるけれど、たしかに黒く染まっている。


 かつて神に叛逆した堕天使たちは、神が堕天の証として天使の輪を剥奪し羽を黒く染めたという。

 神がいない今堕天するというのはおかしいし、天使の輪は変わらず顕現していた。


 不審に思っていると、校庭の方から新たな爆発音が鳴り響いた。

 そしてもう一つ、食堂の方からも爆発と黒い魔力が。


「二手に分かれるか、俺は食堂の方に行く。片翼は校庭の方を頼めるか?」


「任せろ、速攻片付けてお前の後始末まで済ませてやるよ」


 そう言うが早いか777号は校庭へと飛び出す。

 こちらも負けていられないとばかりに勢いづいて食堂へと向かうが、そこで見たのは絶望的な光景だった。


 すでに立っている天使は暴走した天使数体のみで、周囲には数えるのが億劫になる数の天使が積み重なって倒れていた。

 それもそのはずだ。暴走して暴れているのはM型、それも6枚羽の天使だった。


 それを見て、今回の事件の大体の事情を察する。

 M型の6枚羽なんてそう多いわけでなく、学校に教師として赴く天使に限れば10人といないだろう。


 何が言いたいかというと、今回暴走したのはまず間違いなくベリアルにやられたことのある天使だ。

 それならば道中M型とR型ばかり暴走していたのも納得できる。


 おそらく今頃校庭ではU型の教師が暴走しているのだろう。なぜそれがまとまった場所で暴走したのかはわからないが、十中八九ベリアルの思惑のせいだろう。


 何故今になるまで潜伏したのかは悪魔のみぞ知るといったところだが、これは明確に地獄からの攻撃だ。

 750号が暴走しなかったのは不幸中の幸いと言っていいだろう。

 早めに化け物の破片を取り除いたのが良かったのか、直接ベリアルと戦ったわけではないのが良かったのか。


 というかベリアルが原因なのか異形の化け物が原因なのかすらわからない。

 そう考えている間にも、暴走した6枚羽たちは無差別に破壊を撒き散らしている。


 流石にM型の6枚羽数人が相手では分が悪い、奇襲で1人か2人は倒しておきたいところだ。

 足に魔力を集め、飛び込む準備をする。


 全員の目線を探り、死角に天使が入り込んだ瞬間。

 音すら置き去りにする速度で飛び込み、無防備な頭にかかと落としを叩き込む。

 床に頭を半分ほどめり込ませた天使の意識が落ちるのを確認する間も無く、次の標的に向かう。


 空中を足場にして、異常を察知して振り返った天使の背後、その足元に回り込む。

 足払いをかけ羽を掴んで転ばせる。

 倒れこむ無防備な胴体を思い切り蹴り飛ばし、ほかの天使にぶつける。


 暴走しているとはいえ仲間を攻撃するのは躊躇うようで魔力が控えめになったその天使を、今度は頭を掴み床に叩きつける。

 先程投げた天使も床に向かって蹴り落とすと、一旦離れて状況を伺うことにした。


 倒した暴走天使は3人。上出来だと言いたいところだが、食堂ではまだ4人の天使が暴走していた。

 その全員がこちらに気づいたようで、魔力が高まっていく。


 ベリアルに比べれば貧弱な魔力だが、数が多いというのはそれだけ対処が困難になるということ。

 四方から攻撃されれば、それだけで俺は負けてしまうかもしれない。


 せめて囲まれないように4人と距離を取ろうとした瞬間、炎と雷の魔法が飛来した。

 回避する余裕もないその攻撃を、魔力を集めた右手で間一髪弾く。


 弾いた、つもりだったが気づけば炎と雷に包まれていた。

 全身から魔力を発し振り払い、なんとか離脱する。

 不可解な現象に混乱しそうになったが落ち着いて考えればなんてことはない、4人の天使が2人ずつ炎と雷の魔法を使ったのだ。


 絶妙にタイミングをずらして放たれた魔法は、1組を無力化してももう1組が間髪入れずに襲いかかる厄介な連携だった。


 もっとも、タネさえわかれば対処はそう難しくない。初めから2組あると知っていれば、無理に抵抗せずに避けてしまえばいいだけだ。


 ただ一つ問題があるとすれば、今の隙に2人背後に回り込まれて挟まれる形になってしまったことだ。

 片方を倒しにかかればもう片方の魔法にやられる。


 カウンターを狙うにしても2方向からの攻撃に反応するのはかなり難しい。そう考えている間にも暴走天使の魔力は高まっていく。


 仕方ない。


 悪魔がこの状況を見ている可能性も考えてあまり手の内は晒したくなかったが、とっておきのひとつを使わなければこの場は切り抜けられないようだ。


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