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とある天使の新たな出会い

 心の中でこっそり決心をしていると、治癒をしてくれていたR型の天使に顔を覗き込まれる。


「ふふ。男の子ですね、0号さんは。負けたくないって想いが、瞳から溢れていますよ」


 驚いて少し後ずさる。しまった、表情に出ていたか。別にやましいことでもないのでいいのだけれど、なんだか気恥ずかしい。


「それに、私は0号さんに憧れてるんですよ?私は長い間、自分を隠していました。いえ、今だって隠したままです。それなのに、私よりも複雑な事情を持つあなたは堂々としている。それが羨ましくて、憧れちゃいます」


 そう言うと、4枚羽だったR型の天使は体の右側だけに2枚の羽を生やした。


 4枚と2枚の"非対称"。

 天使の輪を出さずとも、かなり濃い魔力の気配がした。


「ちなみに私はR型の、48号です。以後お見知り置きを」


 丁寧にお辞儀をする48号さんの首元には、うっすらと聖痕の跡が見えた。

 半ば消えかかっているのは、強引に消そうとしたからなのだろう。


 今でこそ厚遇の対象である非対称と聖痕だが、かつては逆に、迫害に近いことをされていたと言う。

 なんでも人間らしさを重視しすぎた結果、妬み嫉みなどの醜い感情が溢れてしまったそうだ。


 人間らしさと天使らしさのバランスが取れた天使を量産できるようになるまでには長い時間がかかったと授業で聞いた。

 そんなことを思い出したついでに、淡い希望と諦観を持ってひとつの疑問を呈する。


「そういえば皆さん、俺の体について何か知っていたり…あるいは、俺と同じようにゼロの天使を知っていたりはしませんか?ミカエル様からは、俺には何かの役割があるとしか教えてもらえなかったので…」


 そう聞くと、予想よりも柔らかな反応が帰ってきた。


「我々はミカエル様の護衛役として、あまり多くの天使とは関わっていないので…残念ながら、お力にはなれないかと」


「我々は長い間生きてはいますが、そのほとんどは鍛錬と任務に費やしてしまったので、あまり見聞は広くないのです」


「うーん…迫害されかかっていた天使を集めたこともありますが…完全に羽も天使の輪もない天使というと、0号さん以外には聞いたこともありませんね」


 ミカエル様に口止めをされているのではなく、純粋にゼロの存在を俺の他には知らないようだ。

 二桁台の天使でも知らないとなると、それこそ大天使の6体にでも聞かないとわからないのではないだろうか。


 一体俺は何者で、何をするために生まれたのか。

 今はまだ、とにかく情報が少なすぎた。


「一応知り合いの天使に声をかけてみますね。ですが、あまり期待はしない方がいいでしょう。もし大天使様が意図的にその存在を伏せているのなら、もはや直接聞きに行くしかないのかもしれません」


「ありがとうございます、48号さん」


 48号さんは特殊な天使に顔が広いようだけれど、おそらくゼロの情報は出てこないだろう。

 ミカエル様の言う通り、今はその時ではないということなのかもしれない。


 その時、ふと14号さんと15号さんが空を見上げる。


「申し訳ありません、0号様。任務が入ってしまったので、今日のところはこれまでにいたしましょう。次回からは、より身のある訓練にいたします。では、再び5日後に」


「48号、治癒が終わり次第0号様を送ってあげなさい。次回からは、力の制御をより精密に行う訓練をいたします。それでは、また」


 そう言って、2人の天使は8枚羽を広げ飛んでいってしまった。空を飛ぶ速度もとてつもなく速く、目で追うのが精一杯だった。


 治癒はほとんど終わっていたので、今日のところは帰ることにする。

 建物を出て、48号さんにお礼をいう。


「今日はありがとうございました。あのおふたりにもお礼を伝えておいてください。それでは、また5日後にお願いします」


「わかりました。それでは帰りましょうか。たしか0号さんは、あちらの寮にお住まいでしたよね」


 帰ろうと背を向けた途端に抱きつかれ、空に浮かびかける。

 この人まさか、俺を抱えて寮まで送るつもりじゃないだろうな!?


「あ、あの!?別にひとりで帰れるので、送ってもらわなくても大丈夫ですから!」


「遠慮しなくてもいいんですよ?15号さんからもあなたをお送りするように言われましたし。大人しく運ばれた方が楽ですよー」


 背中にのしかかる、ナナコより大きな女性型特有の膨らみの重さ。

 思わず顔が赤くなってしまい、慌てて飛び降りる。


 あんな状態で寮まで帰ったら、125号さんやナナコに何を言われることか。


「でしたら、えっと、手!手を掴んでもらえませんか?その方が良いですよ、絶対良いです!」


 そう言って右手を差し出す。

 48号さんは少し疑問に思ったようだが、勢いに負けたのか手を掴んで飛んでくれた。


 寮への帰り道では、48号さんから色々な話を聞いた。

 14号さんと15号さんは双子の天使だということ、むかし48号さんが迫害されかかっていたところを助けてもらったこと。一緒に歪な特徴を持つ天使を集め、一大勢力を築いたこと。かつての恩を返すために、ミカエル様の護衛の補佐として先ほどの建物に常駐して治癒役を担っていること。


 ちなみに先ほどの建物は天伏殿といって、訓練場以外にもさまざまな用途に使える大部屋がいくつもありそこで集会などを開いたりするのだそうだ。


「片翼部隊や非対称部隊を設立したり、聖痕持ちの天使を集めた集会を定期的に行なったりしています。もう私のように、惨めな思いをする天使はいない方が良いですから。それでも、未だに偏見や差別は無くなりません。人間らしさというのも、難しいものなのです。ですが、味方同士で憎しみあっても何も生まれません。私たちは皆、神と人間のために戦うべき天使なのですから」


 きっと今のように片翼や非対称が隠れた実力の証であるとか、聖痕持ちは優秀さの証であるとかの認識を広めるためには、並ではない努力があったことだろう。

 優しげな48号さんの中にも、熱い情熱のようなものを感じた。


 そういえば、片翼といえば777号も片翼部隊に誘われていたりするのだろうか。

 今度聞いてみることにしよう。

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