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◆三年前 交易都市エメラーディへの旅3




◆~三年前~ 交易都市エメラーディへの旅3




 妖魔達が魔法や投げ槍で一気に攻撃を開始した。

 だが即座にレネスが魔法を唱える。


「マジックシールド」


 俺達の目の前に半透明の壁が現れる。

 そして投げられた槍や放たれた火球、あらゆる攻撃を防いでいる。

 レネスはこの半年で、魔法使いとして二段飛ばしでレベルアップした。

 たとえ人外の敵だとしても相手にはならない。


「少しはやるようだな……だが、これはどうだ!」


 マロードが叫ぶ。今度は何をする気だ……? 俺は周囲に注意を配る。

 だが、何も……


「ハルト! 下だよ!」


 レネスに言われて、すぐに下を視る。

 波の下にゆらりと影が現れた……と思いきや、そいつはすぐに顔を出した。

 魚と言うよりも、蛇のような細長い巨体。

 だが蛇ではない。

 蛇よりも鋭い顔つき、鋼さえも砕きそうな牙がその顎から覗かせている。


「くっ、シーサーペントか!?」


 海面から首をもたげた竜が、俺達に襲いかかってきた。


「この土地の約定を裏切り、海の恵みをかすめ取る盗人どもめ、覚悟しろ!!!」

「約定……ってなんだっけ……」


 『前回』のときはこのあたりの話を聞かずにぶっ倒してしまったんだよなぁ。

 などとシーサーペントの攻撃をひょいひょいとよけつつ過去……いや、未来に思いを馳せる。


「白々しい! そこの男……ダナンと一緒にいながら知らんと言うのか!」

「ダナン? ダナンさんが何か関係あるのか?」

「おうともよ! 我との約定を破ったのはそっちだ!」


 マロードは憤怒に満ちた目で、港にいるダナンを睨んだ。


 裏切り者? 恥知らず?


 こんな話は初耳だった。

 しかもダナンは抗弁する様子も無い。


「その通りです。我が身可愛さにマロード様を裏切ったのは事実。ですがマロード様……いえ、マロードよ。無辜の民を傷つけて良いかは別の話。私を恨むなら私を害すれば良い」

「……詳しくは知らないが訳ありみたいだな」


 と、視線がそれた瞬間、シーサーペントが俺めがけてつっこんできた。


「馬鹿者め、戦場で気を抜くなど!」

「うおおおっ……!?」

「ハルト! 危ない!」


 シーサーペントはその大きな口を開け、凶悪な牙で俺を噛砕こうとする。


 が、そんな力技なんて……!


「絶技・錬体!」


 俺は魔力を自分の皮膚に集中して鎧のように覆う。

 牙が俺の体に届く1センチ手前で、がっしりと止めていた。


「なんだと!?」

「うおおおおっ!」


 俺はそのまま魔力を腕力へと変換し、シーサーペントの牙を思い切り掴む。

 大人と子供どころの体格差ではない。

 だが、俺にあふれる力は竜など物ともしない。

 そう、あの悲劇的な未来を避けるためならば、


「どっせーい!」


 なんだってしてやろう。

 俺は、力任せにシーサーペントを投げ飛ばした。


 ひゅるりひゅるりと音を立てて飛んでいき、そして数キロ先の海面に轟音を立てて落ちていった。余波がこちらまで届き、港に浮かぶ船も、俺達も、ぐらりと揺れる。


「うおっと……ちょっとした津波だな」

「貴様……」


 マロードが俺達を睨む。

 だが、すぐに襲いかかってくる兆しは無い。


「まだやるか」

「なぜ、手加減した」


 見抜かれたか。

 剣を抜いてしまえばシーサーペントなどすぐに輪切りにできる。


「話し合うためだって言っただろう」

「……」


 しばし睨み合いが続いた。

 こうなったら戦うしか無いのか……そう思った瞬間、


「……今は引こう! だが次来るときは覚悟しておけ。そしてダナン! 貴様だけは絶対に殺してやるからな!」


 そう言い残し、荒波を気にすることもなく静々と引き下がっていった。







 無事にマロードを撃退できたおかげで、ひとまずの安寧は取り戻せた。

 船大工や港の関係者は一様に胸をなで下ろした。

 これで、俺達も疑われることなく活動できる。


 ぶっちゃけた話、俺とレネスはやる気がない。


 総本山に疑われない程度に戦いはするが、簡単に仕事をこなして更に難度の高い依頼を渡されるのは非常に困る。俺達は俺達が生き残るために何をするべきかを考えなければいけないので、仕事にかかりきりになりたくはないのだ。


 それに、総本山や権力者達から「勇者達は制御不能なほどに強い」と警戒させるのもまずい。「以前」の俺達はがむしゃら過ぎた。最終的に決裂するにしても、こちらが先んじて行動しなければならない。


 その上で、マロードを撃退するのはやりやすかった。

 あいつは海を拠点にしている以上、逃走されると追いにくい。


 ……という口実が使える。


「くそう! 何という強さだ……!」

「マロードめ! 年貢の納め時だ!」

「ふん! 今日はこのくらいにしておいてやろう……撤収!!!」

「ういーっす」


 だから俺たちは、マロードが現れる度に連中を撃退しつつも深追いはしなかった。


 適度に苦戦して、適度に攻撃し、「7~8割は勝ったな」とマロード達に思わせる。

 そうするとマロード達は無理をせずに退却する。


 マロード達は、俺の態度を探っているところがあった。

 そのため言葉をかわすことなく脚本付きプロレスが成立してしまったわけだ。

 マロードの部下達が若干やる気なさげになっているのは気になったが。


「流石は勇者殿……!」

「なんと頼もしい」

「聖女様の魔術も冴え渡っております」


 そして俺達の微妙なサボタージュに気づくこともなく、町の住人達は口々に褒めそやした。


 称賛のされ方は『前回』以上だ。

 やはり『前回』の俺達はちょっとやり過ぎていたのだろう。

 あっけなく倒しすぎてしまい、俺達のやっていることの凄さや苦しさが伝わらなかった。

 皮肉なことだが、手抜きして苦戦することで周囲の人間から理解を得られている状態になった。


 まあ、ミスラト教の総本山の人間は俺達の戦いぶりを直接目にすることはないので裏切られることは確定だろうけれど。


 ともあれ、そんな手抜きプロレスの日々が何日か続いたある日のことだ。


 俺達二人は、ダナンに呼び出された。


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