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◆四年前 月光樹の洞、最深部2 // ◆断絶時空のため時系列不明 聖魔戦争・戦勝祝賀パーティー




◆~四年前~ 月光樹の洞、最深部2




 ヤドリギは凄まじく硬かった。

 このあたりにいる魔物の皮膚よりも硬い。

 魔力を宿した斬撃を何度も繰り返して、ようやく切り倒すことができた。


「よし……!」


 木片をかきわければ、そこには二、三人が十分に通れるほどの通路があった。


「これ、明らかに人為的な封印だね……魔力の隠蔽も上手い」


 ユーデルが緊張した面持ちで呟く。

 この奥には何かがある。予感というよりも確信だった。

 俺達は慎重な足取りで通路を進んでいく。


 そして、やがて広間に出た。


「これは……」


 壁を覆い尽くすほどの本棚がある。

 一生かかっても読み切れるだろうかというくらいの書物や巻物がある。

 何かを乱雑に保管した棚や箱がある。

 人の手が何度も触れて艷やかさを失い、しかしそのかわりに古びた味わいを備えた机と椅子がある。

 何度も何かを描かれ消されを繰り返し、これ以上使えないだろうと言うほど劣化した黒板がある。


 まるでここは


「学校……?」

「いや、違う。魔術師の工房……だね」


 俺の言葉に、ユーデルがぽつりと呟いて訂正した。

 魔術師や魔法使いについて詳しくはないが、言われてみればその通りだと思った。

 周囲にある道具類だけではなく、魔力というべきものをひしひしと感じる。


「こっちだ」

「ハルト?」


 この部屋の一番奥には、厳重に封じ込められている箱があった。

 そこに吸い寄せられるように近付いていった。


「危ない! 何が封じられているかわからないぞ……!」

「いや、これを見つけるために俺達は来たんだ」


 ユーデルの忠告も聞き流し、俺は鎖でがんじがらめにされている箱を見つめる。


「それに触れてはいけない、まずは解呪を……」


 だが、俺はユーデルの言葉を無視して鎖をむんずと掴む。

 許しなく触った者にダメージをあたえるトラップだ。

 そんなものは俺には通用しない。


「あ、あれ……?」

「大丈夫、魔力を高めて自分の手を守ってる。鍵穴もないから無理やり千切るしかない」

「ハルトさん、いつの間にそんな技を……?」


 レネスが驚いた顔で俺を見る。


「剣に魔力を込めてるうちに、なんとなくやり方がわかったんだ。応用すれば剣だけじゃなくて手とか足とかに魔力をこめて守ったり攻撃力をあげたりできる」

「す、すごいじゃないかハルト。教えるまでもなく絶技にたどり着くなんて……」

「絶技? なんだそれ?」

「勇者が、聖なる魔力を意のままに扱うための技さ。通常の魔法使いや剣士には決して到達できない、断絶した先にある究極の技巧。それゆえに『絶技』。魔力の扱い方はこのために教えたんだけど、まさか自力で習得するなんて……」


 なるほど……あの黒雷ダルクレイが使い、俺も同時に目覚めた技は『絶技』ということか。


「ありがとう、ユーデル。これからは絶技を磨いていく」

「例には及ばないさ、それより」

「ああ」


 俺は握りしめた鎖を力任せに引っ張った。

 ゆっくりと鉄がひん曲がっていき、そして、


「うわっ!?」


 鎖がちぎられた瞬間、箱の蓋が開いた。

 箱の方には一切手を触れていないのに。


「罠、じゃないですよね……?」


 レネスが警戒しながら杖を構える。


「いや、おそらく中に封じ込められた物の魔力が強すぎたんだ。まるで風圧に感じてしまうほどに……」


 俺たち3人が見守る中、箱の中から出てきたのは真っ黒い宝玉だった。


「玉……? なんだこれ、黒曜石とか……?」


 その玉のある場所だけが冗談のように黒い。

 まるで絵の具で真っ黒にしたかのような、味も素っ気もない黒。

 黒すぎて陰影がまったくわからず、二次元の円形にすら見える。


「違う。光を吸い込んで一切反射していない」

「ユーデル、わかるのか?」

「……光とは、時間の象徴。どんなものさえも光より速く走ることはできない。この世の理の一つだけど、それに反逆することが時魔術の原理」


 ……あー、なんか物理の時間でちょっと聞いたな。

 アインシュタインだったっけ?


「難しいことはわからないんだが、つまりこれは時魔術に関係するってことで良いのか?」

「ああ、多分そうだ。でも……」

「じゃあ持って帰ろうぜ」

「い、いや、そうしたいのは山々だが……」

「あ、直接触ったらまずいか?」

「それもある。トラップでないにしても、何があるのか検討もつかないし」


 ユーデルは顔をこわばらせて、鋭い瞳で黒い玉を見つめていた。


「……なんだか妙な胸騒ぎがする。これは、ぼくの想像を超えるものだよ」


 確かに、たたごとじゃない雰囲気を感じる。

 それにいろんな発見をして疲れた。そろそろ休みたいところだ。

 だが、そこでレネスが手を上げた。


「私があれを確保します」

「レネス?」

「防御魔術を張りつつ『アポート』を使えば、あの玉に触れないように箱に戻せば安全に運べると思います。エルフの里のユーデルさんの家で、ゆっくりと調べれば良いでしょう」

「そりゃそうだが……」

「それに……放っておいてはいけないような気がするんです」

「そうだな」


 客観的に考えればユーデルの言う通り、警戒に警戒を重ねるべき危険物なのだろう。

 だがここに来てから、なぜか「懐かしさ」とでも言うべきものを感じるのだ。


「いきますよ」


 と、レネスが防御魔法……不可視の盾を展開して衝撃に備える魔法を唱え、玉に近付く。

 だが、そのとき、


「……ん? あれ?」


 玉が動き、真っ黒だった玉の色が反転し、白い光を輝かせ始めた。


「な、なんだこれ……?」

「まっ、眩しい……!?」


 そして光の奔流が流れ出し……








◆ ~断絶時空のため時系列不明~ 聖魔戦争・戦勝祝賀パーティー




 それは、饗宴のときに起きました。


 光明神ミスラト総本山、陽光の間。


 それは貴人達を招き、盛大なパーティーを開くための大広間。


 当然、そこに並び立つ人々は誰もが貴人ばかりでした。


 光明神ミスラト総本山の高級司祭、ベナエ連邦の各国の王、エルフやドワーフの長老達、ロナハーム帝国の帝や遊牧民ヴェルキサの牧王さえもいました。光の勢力の全ての国の長が集まっていると言っても過言ではありませんでした。


 そんな高貴な方々ばかりでありながら、誰もが眩しい笑顔でした。


 そこで、壇上で饗宴のために演説をしているのは教主のベルモンディ様……。


「光の勢力の勝利を祝い、そして感謝を光明神ミスラトに捧げようではないか」


 その声と共に、饗宴に参加していた人々が一斉に杯を掲げました。


「神に感謝を!」

「おお、神に感謝を!」

「神に感謝を! 神に感謝を!」


 そして、列席者の高揚が高まったところで、ベルモンティは杯に口をつけ、飲み干しました。


 人々は、それにならいました。


 勇者様も、隣にはべるわたしも、同じように杯を飲み干しました。


 その場には、もはや敵などおりません。


 同胞達だけです。


 そのはずでした。


「うっ……!?」

「勇者様、どうされました?」


 勇者様の腕が力なくぶらりと垂れ下がり、杯を落としました。

 ぱりんと、小さな音を立てて杯が割れる音が響きました。


「がはっ!?」


 ああ……その光景は、忘れようとしても忘れられません。

 無敵のはずの勇者様の口から、鮮血が溢れ出たのですから。


「……勇者さま?」


 私はわけもわからず、呆けたように勇者様を呼びました。

 自分の顔にかかった血を拭いもせず。


「あっ、ああっ……」


 敵はすでにいないはずでした。


 闇の勢力は、勇者の活躍によってことごとく討ち滅ぼされたのですから。


 勝利に勝利を重ね、闇の勇者ダルクレイ、そして魔王さえも討ち果たしました。


 だから、これは、


「……『ディスポイズン』!『キュア』!」


 私は、あらん限りの魔法を唱えました。


 だがそれも徒労に終わりました。


 犯人は、闇の勢力などではないのですから。


「ゆうしゃさま……ハルトさん……!

 いや、なんで、どうして……っ!?

 勇者の加護を破る毒なんて……ありえない……!」


 毒を盛った人間は、隣に居る人間が解毒を施すことなどわかっていたのでしょう。


 だからおそらく、普通の魔法では解毒できない毒を盛った。


「なんでっ……! 『キュアカース』! 『ディスペル』! 『キュア』! なんで、どうして効かないの……!?」


 流れ落ちる涙よりも、何度も何度も、あらんかぎりの癒やしの魔法を唱えました。


 すべてが無駄でした。


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