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◇現在 名も無き開拓村、ダルクレイの来訪3




◇ ~現在~ 名も無き開拓村 ダルクレイの来訪3




「お前には負け続けた」


 ダルクレイは苦渋に満ちた声を出し、そして出された茶を飲み干した。


「……戦場ではお前の勝ち越しだろ、何言ってんだ?」

「そういう意味じゃなくてだな……」

「なんだよ?」

「俺も嫁が欲しいんだよ!」


 と、うちのテーブルをどんと叩いた。

 ジルがひぃっと小さく悲鳴をあげた。


「ウチのメイドをあんまり怖がらせないでくれ」

「おう、ごめんなージルちゃん」

「いっ、いえ、すみません」

「はぁ、まったく……ジル、下がっていいわよ」


 レネスが呆れ気味に言うと、ジルは一礼してそそくさと下がった。

 まあやはり怖いものは怖いのだろう。

 だがダルクレイは気にせずばいばーいと手を振っている。


「ダルクレイってさぁ」


 レネスが頬杖を突いた。

 ジト目でダルクレイを見ている。


「ん? なんだ?」

「戦場で会う度に、女に守られるとは情けなくないのかとか、女は戦場に出るなーとか、女は邪魔だーとか。私に邪険にしてばっかだったじゃん」

「そ、それは誤解だって」

「女騎士に決闘を挑まれたときだって剣を使わず蹴って倒したとか」

「いや、ちげえよ! 女は殺したくなかったの! あと子供も!」


 昔のダルクレイは、堅苦しい男だった。

 まあ、そこがまた格好良く、武人として敵味方双方から尊敬を集める美徳であった。男の騎士に対してはいついかなるときも決闘に応じたが、兵になった夫や親の仇討ちのために女子供が挑んできてもまともに取り合うことは無かった。

 戦場であればそんな女も子供も、哀れな末路になることがどうしても多い。決闘で負けたとあればなおさらだ。死よりも辛い苦行が待っていることなんてざらにある。だがダルクレイは、女子供を奴隷として売り飛ばすようなことは厳しく禁じた。小間使いや飯炊き女にすることは目こぼししたが、よってたかって慰み者にすることに対しては烈火のごとく怒り、味方といえども加害者の首を遠慮なくはねた。その高潔な振る舞いは誰もが褒め称えた。

 とはいえ、直接女子供にぶつける言葉は厳しかった。特にレネスに対しては口が悪く、レネスは未だに根に持っている。


「まあわかるよ、私だって後味の悪い殺しとか大嫌いだし、そうでなくともイヤだし。でもさぁ、そういうこと言ってたら女の人って大体怖がるじゃない。格好良いって言う人もいるけど、そういう人って遠巻きに見てるだけでお近づきになりたいとかあんまり思わないでしょ」

「うっ」


 痛いところを突かれたのか、ダルクレイは気まずそうにしゅんと耳を垂らした。


「いやでも、そういうの気にせず近付いてくる女とか居るんじゃ無いか?」


 と、俺がフォローするように言うと、ダルクレイは眉間にしわを寄せた。


「居ないわけじゃなかったんだが怖くってさぁ……なんかこう、凄い自信ありげで夜も強そうって感じで……そういう人に童貞ってバレたら恥ずかしいし、そうでなくても俺が女に笑われたとあっちゃ本気で部隊の士気が下がりかねない。俺って無駄に英雄視されてたから」

「冷静に考えて女よりお前の方が遙かに怖いからな?」

「それはわかってるんだけどぉ!」


 だんとテーブルを叩く。


「何度も馬鹿力で叩かないでくれ」

「悪い悪い。……あーあ、俺もついてくる女の人とか邪険にしなきゃ良かったなぁ」

「そりゃまあ、後の祭りだろ……」


 商売女のお世話にでもなれ、とハードボイルド小説家のような発言をしそうになるのをぐっと堪えた。この話をしてもダルクレイは恥ずかしがって行きたくないと言うし、レネスが「ハルトも浮気する気じゃないでしょーね!」と疑って、一晩で20回くらい搾り取られる。


「……この村のほとんどにお断りされちったよ」

「あれ、でもさっき百連敗とか行ってなかったか? この村の人口より多いじゃ無いか」

「この村に来る前にも縁談の話があったからな、もっとも戦争で忙しくて全部話が流れちゃったけど」

「なるほど、それで通算百回と」

「あと、東の池の妖精とか冬の精霊にも求婚したんだけどフラれた」

「そーやって見境無いからフラれるんじゃないの?」

「いやまずどうやって見合いしたんだよ」


 精霊や妖精に求婚までこぎ着けたのがまず凄いと俺は思うのだが、レネスは呆れ顔だった。

 まあ確かに節操がないと思われても仕方ないか。


「うるせー! 毎晩毎晩ずっこんばっこんやってるお前らに言われたくないわ! うっせーんだよ!」

「はぁー!? 人の家にに聞き耳立てる方がありえないんですけどー!? そーやってムッツリすけべだからお見合いでフラれるんでしょー!」

「仕方ねーだろ! 俺は耳も鼻もニンゲンより強いんだよ!」


 ダルクレイの家はここから百メートル以上離れているのだが、猫科動物と同じ聴覚嗅覚を持つこいつには俺達の夫婦生活の様子などお見通しのようだ。まあジルちゃんにもバレているし今更ダルクレイに隠すことも無いので、俺は平気なのだが。


「ま、ともかく、ほとんどにお断りされたって言ってたが、ユーデル達にも断られたのか?」

「いやエルフ達には求婚してない」

「なんでよ」


 ユーデルというのは、俺達と同じく戦争から逃げてこの開拓村へと住み着いた仲間だ。種族はエルフで、元々は俺達光明神ミスラト勢力に与していたが、ダルクレイに対してあまり緊張することもなく、むしろ好意的に接していた。


「あいつらの家、臭くって……」

「ああ……」


 彼女も昔は真面目なエルフだったのだが、様々な苦労や絶望を経験してレネスとはまた違った方向にはっちゃけてしまっていた。ダルクレイのように鼻が利く奴には厳しかろう。


「というか結婚するしないにしてもあいつの家に近寄るだけでちょっとキツいんだよな。なんとかならねーかな?」

「そう言われても取り上げるわけにもいかんし……つーか話が逸れてるぞ。お前の婚活の話だろ」

「ああ、そうだった……誰か居ない?」

「と言っても年頃で未婚の娘さんなんて……」


 ……あ、一人だけ居るなぁ。


「ちょっと聞いてみる」



「今回はご縁が無かったということで……」

「はえーよ!」


 丁寧に詫びる俺とレネスに、ダルクレイはまあ流石に怒った。

 探すと言って一時間も経たないうちにこれだから仕方あるまい。


「いや、メイドのジルちゃんに聞いたら「とても生きた心地がしないから勘弁してくれ」って言われてな」

「ああ、あの子か……いや軽くショックだわ」

「で、ジルちゃんから隣村の子を紹介して貰って、今テレポートで移動して聞いてみたんだが……」

「うん」

「人相を聞いたらみんなお断りされた」

「そうか……猫系男子って人気無いのかな」


 ダルクレイは額に手をあてて疲れた溜息を吐く。


「……疑問なんだが、獣人族って人間も性的な目で見れるのか?」

「ん? ああ、俺はイケるよ。割と特殊性癖だけど」

「特殊性癖なのかよ」


 じゃあ逆に言えば獣人族がイケる人間も特殊性癖と言い切っていいじゃないか。

 まあ冷静に考えれば俺も猫顔の女子とか犬顔の女子とかキツいし、気付くべきだったな。


「同じ獣人族で探した方が良いんじゃ無いか? 山の方に獣人族の村があっただろう。二、三回くらい行ったけど平和で気の良い連中だったぞ」

「俺シティボーイだから、田舎暮らしくらいならともかく山育ちの子はちょっとなぁ」

「お前変なところで好みにうるさいな!?」

「でもけっこう文化の違いって大きいんだよ、蛮族暮らしが身についた奴を部隊に入れると絶対対人関係でトラブルが起きるしさぁ。文字はかけなくても良いけど、せめて貨幣の概念がわかる程度には文明度が欲しいっていうか」


 こいつは勇者であると同時にプロの軍人だ。女性に対しては手加減抜きの童貞力を発揮してしまうが、女性を抜きにした人間関係などでは意外と鋭い。


「……いや、待てよ」


 と、ダルクレイがぽつりと呟いた。

 そしてしょぼんとたれていた耳がぴんと立った。


「ん? どうした?」

「文明から遠い場所で育った子を俺色に染め上げるって良くないか?」

「聞かなきゃ良かった」


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